「草刈りを喜捨(きしゃ)させていただきました。勝手に申し訳ありません」。こう書かれた匿名のメモがお寺のポストに入っていて、境内の雑草がきれいに刈り取られていました。

 喜捨とは寺院や貧しい人に施しを喜んですることの意味です。仏教用語なので一般の方にはあまりなじみのない言葉かもしれません。いわゆるお布施です。お布施というとどうしても金品のイメージが先行してしまいますが、お金だけでなく、こうした行動、物理的な作業も布施行に入ります。

 布施行には3通りあり、「財施」は品や衣食住など現実的なお布施、「法施」は仏様の教えを説くお布施、「無畏施(むいせ)」は弱った方に親身に寄り添う無上、最上のお布施です。

 榛東村に伝わる昔話で、お地蔵様が子どもの姿になって田植えを手伝ってくれるという民話がありますが、仏様が草刈りをしてくれたのでしょうか。いいえ。仏様のような心を持った正真正銘生身の方が、自分の時間を割いて作業を布施してくれたのです。誠にありがたいことです。この場をお借りし、お礼を申し上げます。

 実は昨年12月に草刈り機やエンジンオイル、チェーンソーなど、作業に使う道具一式を盗まれてしまい、外の掃除ができなくなっていました。仏様がいらっしゃる足元で盗みを働くとは何事か!と思う方もいらっしゃるでしょう。不偸盗(ふちゅうとう)といって、仏教の戒律である五戒の一つに人の物を盗んではいけないというのがあります。しかし、「金銭的に困った方、浅慮の衝動で行った方もいらっしゃるのであろう」と思いを巡らせていました。

 当初は「冬だし、そこまで草も伸びないから」と買い直しを保留しましたが、その間に草はすくすくと成長していきました。どうしたものかと悩んでいるうちに春になり、こちらの都合には構わず、草はさらに勢いよく伸びていきます。

 いよいよ草刈り機を買おうか…。そんなある日、お寺を空けて法務を終えて戻ると、本堂の前がやけにスッキリしています。「あれ! 草がない!」。そして冒頭のメモを見つけたのです。

 この日はゴールデンウイークのさなかでした。せっかくの大型連休です。ゆっくり休みたい気持ちもあったでしょうに、自分を顧みない利他の心で布施行にいそしんだ温かいお心に感謝申し上げます。ありがとうございました。

 さて、お寺に頂いたお布施をどう還元するか。そこで、改めてお寺とは地域に支えられているのだと実感し、「縁と喜びと仏様」をつなぎたいと思いました。地域に恩返しできる僧侶を目指して日々精進してまいります。



大福院僧侶 小野関隆香(榛東村広馬場)

 【略歴】(おのぜき・りゅうか) 県内最年少の女性山伏。京都の聖護院で2017年から2年間修験道を学び、19年4月に大福院(榛東村)の次期住職に。法話会で山伏の文化を伝えている。
 2021/7/4掲載