「雨だから中止だと思っていました」。アウトドアガイドをしているとよく言われるのですが、そもそもアウトドアとは、外遊びとはなんでしょうか。日本全国平均の降水率は35%ほど、つまり週3日は雨など悪天なのです。

 「外で遊ぶ=天気の良い日に遊ぶ」。子どもの頃からそうやって育った方は多いでしょう。しかし、大人になってからはその限りではありません。むしろ、どんな天気でも遊ぶことこそが大人の特権ではないでしょうか。

 数年前、下仁田にある荒船山にお客さまのガイドで登ったときのことです。

 朝8時、登山口で集合した時点で、ポツポツ雨が降っていました。その日のお客さまはご夫婦で、すでに何回もガイドさせていただいて気心は知れている仲。「どうします?」と伺うと「せっかく来たし、レインウエアを着て歩いてみたい」とのこと。ガイドのときは雨天時の準備をしていただいているので、雨の中を歩く格好で入山しました。

 荒船山は標高1423メートルの低山で、登山道には木々が生い茂り天然のアーケードをつくっています。梢(こずえ)の屋根下を歩くのは独特の楽しさがあり、「雨音の派手さほどぬれないね」などと話しながら歩いていました。雨の山中はうっすら霧がかり、神秘的な雰囲気です。特にブナ林などは樹幹流という雨の日にしか見られない現象もあります。

 荒船山行の目的地は山頂と艫(とも)岩という高度差300メートルの崖になっているとても見晴らしの良い展望地。「きっと今日は雲で何も見えないな」。そう思っていました。道のりの3分の2辺りですれ違った1人の登山者によると、「何にも見えないから下りてきちゃった」とのことでした。

 すっかり雨の雰囲気を楽しむことに照準を合わせていた僕たちは、気にせず目的地へと向かいました。すると突然目の前にスポットライトが現れました。雲の切れ間から日が差し、木漏れ日がステージよろしく地面を照らしているのです。「これはもしや」。そう思うが早いか気づくと速足で歩いていました。艫岩に着くと、なんと目の前に水平線まで見渡せる大雲海が広がっていたのです。

 眼下は白、その上は真っ青な空が広がり「天国」そのものでした。感嘆の声を上げながら夢中で写真を撮りました。ひとしきり景色を楽しみ、昼食の準備をしているとあっという間に絶景は消え去っていました。

 「やっぱり今日登って良かったね」。そう言ってもらえたことが、今日のガイドで天候が悪くても自信を持てる一因となっています。もちろん雨天では準備を怠ると痛い目を見ます。ですが、しっかりと準備をすれば多少の悪天も楽しめます。時には思いがけないご褒美が待っていることもあります。さあ、「アウトドア」に出かけましょう。



アウトドアガイド 須田建 みなかみ町上牧

 【略歴】2017年にみなかみ町のアウトドア会社「ワンドロップ」立ち上げに参加。自伐型林業団体「モクメン」所属。神奈川県藤沢市出身。東京農業大卒。

2021/01/30掲載