私は社会起業家(ソーシャルアントレプレナー)として群馬から東京へ勝負に出ました。英国から始まった社会起業家は、社会の課題を事業により解決し、さらに新たな社会的価値を生み出します。社会福祉のコンセプトを持つ「ソーシャル」と、お金もうけのための起業の「アントレプレナー」という、相反する二つを組み合わせていて、お涙ちょうだいの福祉でもなければお金もうけの従来のビジネスでもない、全く新しいビジネスです。

 私が事業を通じて解決したい社会問題は「外見とメンタル」です。主に事故や仕事中などに指先をなくされた方、乳がんで乳房をなくされた方などにオーダーメードでボディーを作り、外見とメンタルをサポートする「エピテーゼ」を提供しています。

 事業を起こすまで、平凡なサラリーマンとして過ごし、身近に体の一部をなくされた方がいるわけでもなく、どれだけの人が存在するか、何に困っているのかさえ考えたこともありませんでした。何かあれば病院へ行って相談し、手術すれば治るものだと信じ、疑いもしませんでした。

 そんな私がエピテーゼに出合ったのは、23歳で米国に渡った時です。元兵士であろう、左の顔、耳、目、頬をなくした30代くらいの男性が病院の診療室に座っていました。驚きのあまり言葉を失い、眺めていると技術者が彼の顔にマスク(エピテーゼ)を作り始めました。

 目を奪われるとはあの時のことをいうのでしょう。われに返って改めて見ると元兵士は“普通”の人間の顔になっていました。これがエピテーゼとの出合いで、その後の人生を大きく変えるターニングポイントとなったわけです。

 現在日本の保険制度は、悪いところを治したら「治療は終わり」と考え、乳がんや事故で指先を失っても、その後の“外見”をフォローすることはほとんどありません。外見の問題は生命と日常の生活に支障がないという考え方に基づいていることがその理由なのでしょう。

 私たちは人生100年と言われる未知の時代に突入しました。2人に1人ががんになり、顔にできるがんも少なくありません。糖尿病で指や足先をなくすかもしれません。農機具やプレスによる事故も毎年起きています。幼児が住宅の重たい窓に指を挟み、切断する事故もあります。

 医療技術は日々向上していますが、組織が損傷すれば元に戻すことができないのが現状です。指切断に関するデータでは、東京都だけでも3年の間に728人が救急搬送されています。

 これまでニーズがあるのにフォーカスされなかった外見ケア。医療や福祉という概念にとらわれない自分なりの価値で行動し、選択することが、これからの社会の在り方になるだろうと思います。



エピテみやび社長 田村雅美 甘楽町善慶寺

 【略歴】エピテニスト。2017年、事故や病気で指や乳房などを失った人向けの「エピテーゼ」(人工ボディー)を手掛けるエピテみやびを起業。元歯科技工士。

2020/12/21掲載