日本ではボランティアを「誰かのために、私心を捨てて、金や労働などを提供する奉仕活動」だと捉えている方が多いようです。私は「誰か」のためにという気持ちだけではなく、自分のためにボランティアに参加するという気持ちを持って参加してもいいと思っています。

 欧米では、ボランティア活動の実績をアピールして就職活動を有利にするということが定着しています。ボランティア活動を通じてさまざまな経験をしたり、多くの人に触れることが、社会に出るために大きなスキルだと認知されているからです。このようにボランティア参加者も何らかの金銭的ではない利益を得たとしても、それは悪いことではないのです。

 私は2013年に農業ボランティアのNPO法人よいおやさいを立ち上げました(NPO法人化は15年)。主な活動は、首都圏の方を集め、渋川市の農家さんの農作業のお手伝いをさせていただくというものです。日帰りの農業支援で、農業体験を目的に参加される方も多いです。

 単位取得のため、ボランティアに参加する学生もいます。そんな理由でも大歓迎です。先生に勧められて参加しても1日の活動が終わった後には、また参加したいと感じていただけるからです。受け入れてくださる農家の方の中には、若い人に野菜についてあれこれと聞かれることを楽しんでいる方もいます。

 畑で汗を流す楽しさを知ってもらい、活動を通して何かを得ることができる場を提供できればと思っています。

 以前、「半年ぶりくらいに家から出ました」と言って家に引きこもっていた方が参加されました。職場でのトラブルで退職し、再就職できずに引きこもってしまったということでした。日帰りの農業ボランティアなら自分でもできそうだ、と考えたそうです。

 「(活動に参加して)1日、大丈夫だったらアルバイトの面接に申し込む」と決意していたという彼は活動後、「面接には行けそうです」と話していましたが、少し不安げな表情でした。

 数カ月後、その彼が再び「よいおやさい」に参加してくれました。「あの後、面接に行きました。仕事は今も続いています」と、すっかり変わった明るい表情で報告してくれました。ボランティアに参加することが、自分の生活を変えるきっかけになったのだと思います。

 彼のように自分を何か変えるきっかけのために参加するボランティアでもいいと思います。また、直接、農作業をお手伝いするだけでなく、他の誰かの役に立てたということは、私たちスタッフにとっても大きな喜び、励みになるのです。

 誰かのためにと気負わずに、自分自身の経験のためにとボランティア活動に参加してみてはいかがでしょう。



NPO法人よいおやさい代表理事 篠崎和彦 埼玉県朝霞市

 【略歴】東日本大震災でのボランティアを契機に、2013年、渋川市で農業ボランティアを開始。現在は同市北橘町でブルーベリー畑を管理する。東京都大田区出身。

2020/12/11掲載