▼ヤマグワの古木が青空に枝を伸ばし、緑の葉が風に揺れていた。沼田市の国天然記念物「薄根の大クワ」は、ぐんま絹遺産にも指定され、地元では「養蚕の神」として信仰を集めてきた

 ▼推定樹齢1500年。かつて一面の桑畑が広がる集落を見守った。周辺の桑園が霜の被害を受けると、高く茂ったこの木の葉を代用したという

 ▼JA利根沼田管内では農家2戸と企業1社が先月初めから春蚕(はるご)の飼育に取り組み、きのう繭を出荷した。利根沼田養蚕製糸推進協議会長の原沢幸好さん(72)は、みなかみ町で養蚕をして半世紀になる。昔は年6回計1トン超の繭を生産し、今も晩秋蚕まで年3回飼う

 ▼昨春はクワが遅霜にやられ、飼育を断念した。2年ぶりの春蚕は寒さのため成育が遅れたが、その後は病気もなく順調に推移。先月下旬に築100年を超す母屋2階の蚕室に上げ、回転蔟(まぶし)に入れた

 ▼繭を原料に化粧品を製造販売するラヴィドール(前橋市)は、沼田市の旧商業施設で春蚕を育てた。同社が養蚕に取り組んで10年。「ただクワを与えてもいい繭はできない。蚕の環境を整えることと、熟蚕の見極めも大事」。峰川秋弘常務(64)は手応えを感じている

 ▼本県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界文化遺産に登録され8年が過ぎた。日本の近代化に貢献した功績は色あせることなく今も輝く。養蚕という郷土の伝統をこれからも大切にしたい。