新型コロナの流行前はたびたび海外で演奏活動をしていました。20年間で訪れたのは13カ国。在外公館からは日本の伝統音楽や楽器での演奏要請が多く、津軽三味線と伝統三味線、尺八、そして紋付きはかまをスーツケースに詰めて出かけました。

 毎回、日本と各国とを結ぶ大使館や総領事館の仕事ぶりには大変感謝しています。

 印象深いのはインドネシア・バリ島での演奏ツアーの際、在デンパサール総領事と共に訪れたスナン・ハーティ財団障害者自立支援施設です。事務所には日の丸の旗が飾ってあり、代表者が「この施設は日本の皆さんから温かい支援を頂いています」と話してくれました。

 同じくデンパサールのマハサラスワティ外語大学は3回訪問しました。日本語学科(夜間部)で熱心に日本語や文化を勉強する学生の姿に触れ、「彼らに誇れる日本人でいたい」と強く思いました。

 海外の日本人学校では子どもたちに伝統三味線と津軽三味線、そして尺八を見せながら演奏したり、講話したりします。

 伝統三味線を示し、「どれくらいの歴史があると思いますか?」「歌舞伎の場面では力強く、お座敷では粋で繊細な音色を出します」などと言いながら弾いてみせます。

 「主役は役者さんや唄、舞踊。演奏で一番大切なのは、決して目立たず、前に出過ぎず、他の奏者と心を一つにして優しくサポートすること」と役割も伝えます。

 津軽三味線については「人のコピーはせず、その場の雰囲気に合わせて即興で弾けることが大事」と紹介。「自分と他の演奏者との違いをアピールします」と言って、演奏を披露します。

 前に出過ぎず他者をサポートすることと、自分の良さを主張すること。三味線演奏の二つの特徴は他にも通じると感じます。

 子どもたちに対し、「私たち日本人のDNAには二つの特徴が刻まれているのでしょう」「場面に応じてそれぞれの良さを発揮してほしい」などと伝えると、その顔が生き生きと輝いていきます。

 先人たちが苦しい時でも世界に向けて「日本の良さ」をアピールしてくれたおかげで、多くの親日国が生まれました。世界各国でもっと日本を好きになってもらうために、私たちは何をすべきでしょうか。どんな「おもてなし」ができるでしょうか。

 相手国の伝統文化を尊重する姿勢が大切です。そしてわが国にも、世界に誇れる素晴らしい日本文化や伝統音楽があります。これを有効に活用すべきだと考えます。

 主宰する梅頌会で取り組んでいるのは、各国の国歌とその国の愛唱歌を三味線で演奏することです。世界から本県に来てくださった皆さんを心を込めてお迎えするため、今日も明日も弾き続けます。

 【略歴】民謡「梅頌会」会主。日本の伝統楽器である三味線、尺八、民謡を伝承普及しようと、国内外で演奏活動を展開している。奈良県出身。近畿大卒。

2022/7/7掲載