認知症には家族が困る症状があります。先日、ある方から近所に住むAさん(夫と2人暮らし)について相談を受けました。「Aさんが私のところに来ては『娘がお金を取っていく。もう一銭もない』と話していく。同じ話を繰り返すので、なんて答えればいいか分からない」―。これは、認知症の症状の一つ「被害妄想」というものです。

 認知症とは、アルツハイマー病などの疾患によって脳がダメージを受けたために、記憶などの認知機能が低下して、生活に支障(生活障害)が出ている状態を言います。初期にはお金や内服の管理、外出、調理などの日常生活手段において障害が始まり、家族の手助けが必要となります。進行とともに着替え、化粧や歯みがき、食事、排泄(はいせつ)といった基本的生活動作が困難となります。
 これらの生活障害に加え、妄想や徘徊(はいかい)、暴力など介護者の手に負えないような症状が表れることがあり、これらを認知症の行動・心理症状(BPSD)と言います。

 認知症の人は、認知機能の低下に伴い、状況の把握が難しくなったり、周囲との関わりが薄くなったりします。初期の場合、物忘れをしていくことや、今までできていたことを失敗してしまうことなどに対して「何かがおかしい」「こんなはずではない」と本人なりの気づきがあります。ただ、気づきに対してどうしてよいか分からなかったり、うまく表現できなかったりします。そのことが、行動・心理症状としての表現につながると考えられます。

 被害妄想になると、「嫁がお金を取った」「夫が浮気をしている」など、現実的には考えにくい内容でありながら、周りが訂正できないほど強く信じ込みます。精神疾患でも見られますが、認知症でもしばしば見られます。背景にあるのは、強い不安感や孤独感、疎外感です。これらが積もり、本人がそれを受け止めきれなくなると、もの取られ妄想や嫉妬妄想などの被害的な妄想へ発展します。

 被害的な内容の妄想はケアする人が悪者になってしまうことも多いため、なかなか冷静な対応が難しく、つい感情的になって強く否定してしまいます。しかし、病気なので修正は困難です。本人の世界観を強く否定し、現実に引き戻そうとせずに、「お金がなくなった」という本人にとっての事実に焦点をあてます。相談を受けた場合は、「一緒に探しましょう」や「娘さん以外の家族に聞いてみよう」と提案してみるのもよいでしょう。

 1人暮らしの高齢の方や、ご夫婦が近所にいて、「最近庭の手入れをしてないな」「最近なんか変だな」など気づいたら放っておかずに、民生委員や市役所に相談すると、対応してくれます。地域での助け合いにつなげていけるとよいです。



内田病院看護師 小池京子(沼田市柳町)

 【略歴】こいけ・きょうこ 1996年から内田病院に勤務。子育てと病院勤務をしながら学校に通い、准看護師、看護師の資格を取得。2017年に認知症看護認定看護師となった。

 2020/08/29掲載