▼2014年に世界文化遺産に登録された富岡製糸場。登録初年度の年間入場者は133万8千人に上ったが、昨年度はコロナ禍もあって22万3千人に落ち込んだ。富岡市は見学料収入を保存整備費用に充てており、集客に知恵を絞る

 ▼「世界遺産と同心円」「猫は蚕の守り神」「時の記憶」。これらは前橋市の画家、酒井重良さん(74)によって企画され、製糸場で開かれた美術展のタイトルの一部だ

 ▼酒井さんは歴史的建築と最新技術が融合・共存する国宝「西置繭所」に魅せられた。「ここを若手芸術家の登竜門、現代アートの聖地にしたい」と展覧会を企画。これまでに100人以上の作品を紹介してきた

 ▼多摩美術大で油彩を学び、県立ろう学校で37年間、美術教諭を務めた。子どもたちが楽しく学べる教材を開発する中で、日本画や版画など多様な技法への造詣を深め、自らも画家としての研さんを積んだ

 ▼退職後、美術団体の公募展最高賞の「日本画院賞」を2年連続で受賞。妙義山を描いた受賞作を富岡市に寄贈した。現在は広瀬川美術館の副館長、企業メセナ群馬の事務局長として県美術界の発展に尽力している

 ▼来場者数が伸び悩む製糸場は、リピーター獲得が課題の一つ。酒井さんは製糸場を主会場とした芸術祭「富岡ビエンナーレ」開催を思い描いている。現代美術は製糸場への呼び水になり得るのか。アートの可能性に注目したい。