今回の新型コロナウイルス騒動で消毒用アルコールの争奪戦や殺菌・除菌・抗菌グッズの買い占め・品薄などが連日のようにニュースをにぎやかしています。その中で「菌」という言葉に違和感を覚えました。私はビール醸造・発酵を生業にしているので、一般の方より少し「菌」に詳しいようですので書かせていただきます。

 この一連の騒動の発端は、ウイルスとバクテリアを混同して「菌」・「細菌」と理解していることにあるように思います。われわれの身近にあり醤油(しょうゆ)や味噌(みそ)をつくる麹(こうじ)、お酒やビールをつくる酵母、ヨーグルトをつくる乳酸菌、または梅雨時期に繁殖するカビは、菌は菌でもバクテリアです。上手に付き合えばいい効果もあります。

 ウイルスは生物に感染することでしか活動できない物ですので、感染前に対策を取る、そのための殺菌・除菌・抗菌です。

 わが家にあった薬用ハンドソープを見たところ、ボトルには「ANTI BACTERIAL」と英語表記がありました。ということは、このハンドソープの効果は「抗バクテリア」であり「抗ウイルス」ではないのです。

 通勤途中、ラジオで一般の方の投稿が紹介されました。道の駅などで販売している木酢液を薄めて自宅で簡単殺菌スプレーをつくるという内容ですが、こちらも「殺バクテリアスプレー」でした。

 重篤な食中毒を起こすノロウイルスなどに効果がある次亜塩素酸水や塩素系漂白剤ですら新型コロナウイルスへの効果がまだ確認できていないと、厚生労働省もWHOも発表しています。そうした中で、メディアが気軽に「殺バクテリアスプレー」を新型コロナウイルスに効果があるかのように放送してしまうことがウイルスとバクテリアを混同してしまう要因ではないかと思います。

 やらないよりはマシと考える方もいるかもしれませんが、必要のないことに過剰に取り組むことで消毒用アルコールなど、本当に有効な物まで品薄になってしまいます。テレビで専門家の方が「新型コロナウイルスはせっけんに弱く、ウイルス表面の膜を壊します。したがって手洗いをすることで十分な対策ができます」と言っていました。

 せっけんで十分なのに、さらにアルコールスプレーをすることが過剰なのです。有限な資源を過剰に使うことは、長引きそうな新型コロナウイルスとの戦いにとってボディーブローのように効いてくることでしょう。どんなに専門家の方が頑張ってウイルス対策をしても、一般の方に正しい知識がないと、コロナとの戦いはどんどん長引くでしょう。

 正しい知識を付ける最初の一歩として、私からの提案は「菌と呼ぶのは、もうやめませんか?」です。



ビール醸造家 斎藤季之 前橋市堀越町

 【略歴】群馬大工学部卒業後、研究職や非常勤講師などを務め、2011年に上野村に移住。村産業情報センターなどを経て、同社を起業した。栃木県佐野市出身。

2020/7/3掲載