▼4年前、群馬音楽センターで行われた群馬交響楽団の定期演奏会のことである。シベリウスの交響曲を演奏中、客席から「パン!」という大きな音が鳴り響いた。指揮者は外国人で、振り返ると何事もなかったようにタクトを振り続けた

 ▼筆者は一瞬身を固くしたが、聴衆に混乱はなかった。原因は車いすのタイヤの破裂。後日、演奏が続けられたのは治安の良い日本ゆえだと聞いた。外国なら銃声だと思い、全員が身を伏せるという

 ▼安全と思われた日本で銃口が安倍晋三元首相へと向けられ、命を奪った。「演説中に撃たれた」「心肺停止の状態」。断片的な情報を伝える速報、繰り返し流される映像が現実のこととは思えなかった

 ▼1992年には栃木県足利市で演説を終えた金丸信・自民党副総裁(当時)に向けて銃弾3発が発射された。けがはなかったが、首相や閣僚、党三役らが狙撃されたのは戦後初めて。これを機に要人警護が見直された。今回警備に穴はなかったか

 ▼現行犯逮捕された男は「特定の団体に恨みがあり、元首相がつながっていると思い込んだ」と供述している。背景には何があるのか。詳細な動機や背後関係を徹底的に捜査し、解明せねばならない

 ▼言論の自由は憲法で保障された民主主義のまさに根幹。ましてや政策、主義主張を国民に訴える参院選期間中の凶行である。テロや暴力による言論封殺は絶対に許さない。