新型コロナで外に出られない日々、千葉のアートアンドミックス展も来年に延期になり、息子は家に居て、意外ときっちりとした宿題が小学校から出ているおかげで大人と子どもの静かな仕事時間。7月の横浜トリエンナーレに向けて刺繍(ししゅう)をゆっくり進めております。

 本棚に積まれた本たちを開く時間があるなと思っていたところ、最近始めたインスタグラムでロンドンの林央子さんからブックカバーチャレンジの紹介を受けました。一押しの本の表紙の画像とその本への熱い思いもぶつけた一言などを添えて次の人にバトンを回すという企画です。

 本棚を眺め回しつつ、これは結構ハードルの高い問題だと気づきました。内容と表紙が絶妙のバランスでできている本ってアート本では簡単に見つかります。「けれど、内容がそのまま表紙なのは、ブックカバーチャレンジの目指しているテーマではない気がする。しかもその選んだ本がバトンを渡す相手にうまく合わなければ」―などと悩み続けていました。

 そうしたところに、新潮社の篠崎健吾さんから黒田夏子さんの新作『組曲 わすれこうじ』の表紙に私の作品『Playing Card』を使わせてほしいとの依頼。「あの最年長芥川賞受賞の黒田夏子さんですか」。聞けば新作にトランプがモチーフとして出てくるとのこと。このタイミングで自分の作品がブックカバーチャレンジすることになるとは。

 黒田さんの芥川賞受賞作『abさんご』。その本が出た2012年はベルリンにいたもので読んだことがなく、ネット通販で取り寄せました(こんな時期でも家まで本を送り届けてくださる運送会社の皆さま、ありがとうございます)。左開きの横書きで『abさんご』、右開きでほぼ40年前執筆の縦書きの『毬』含む3作品という、1冊の中に右開きと左開きが共存する本構成でした。

 この本で思い出したのが偶然にも同じ12年に作った、祖父をモチーフにした作品『K.T.’s Bookshelf』。00年から住んでいたベルリンではドイツ語か英語の本を読んでいました。ある日、谷崎潤一郎研究をしていた友人が日本語のお勧めの本を送ってくれ、ベルリンの同じテーブルに英独語の本と並べた時、はたと気づいたのです。日本語の本は右開きで英語もドイツ語も左開き!

 これでは日本人とヨーロッパ人の脳みその構造も変わるだろうと思いつつ、ニューズウィークを購読する明治生まれの祖父の背中が浮かびました。日本にしか住んだことのない彼が左開きと右開きを同時に読んでいたのだと驚き、私のベルリンの本棚と祖父の脳内の本棚を並列して作品化しようとしたあの試みが、今回左開きの横書きのみで構成された『組曲 わすれこうじ』を引き寄せたと思うのです。



現代美術作家 竹村京 高崎市上中居町

 【略歴】東京芸術大―同大学院修了後、ベルリンに留学。文化庁芸術家在外研修員として2015年までベルリンを拠点に活動。帰国後、高崎市移住。東京都出身。

2020/06/10掲載