高速バスを走らせる夢をかなえた冨沢さん(左)と篠原さん

 緑色のバスが吾妻路を走り抜けていく。草津温泉(草津町)や八ツ場ダム(長野原町)エリアと、つくばエクスプレス八潮駅(埼玉県八潮市)を結ぶ高速バス「Dts line(ライン)八ツ場・草津温泉号」だ。昨年12月に運行を始め、休日は満席になることもある。

 「高速バスで地元に観光客を連れてきて、地域活性化に貢献できればと考えてきた」。運行するDts creation(クリエーション、長野原町大津)の社長、冨沢裕二さん(42)は感慨深そうに車体を見つめた。 都内の大手高速バス会社でバス運転手をしていた17年前、同僚だった専務の篠原忠司さん(44)と独立に向けて動き出した。高速バス事業の認可を得るには多額の資金が必要だ。2人は会社勤めをしながら、地元でトウモロコシなどを栽培して販売。2014年に法人を設立すると、台湾の旅行会社と契約してインバウンド(訪日外国人)向けの旅行手配事業を始め、資金をためた。

 ところが、20年の新型コロナウイルス感染拡大でインバウンド需要は“蒸発”。冨沢さんは「2、3カ月の辛抱。これまで必死に働いた代わりに休めばいいと思っていた」。だが、その夏の仕事はゼロ。売り上げは9割以上落ち込んだ。団体旅行もインバウンドも厳しい。個人客を取り込むしかない。「うまくいかなくても、夢をあきらめるわけにはいかなかった」と篠原さんは振り返る。

 高速バス業界は競争が激しい。新規参入事業者がいきなり東京都内に乗り入れることはできないため、八潮駅を発着点に実績を積み、都内バスターミナル(BT)と交渉を進めた。参入から半年。異例の速さで東京駅八重洲口を含む都内BTへの乗り入れ許可が下りた。9月17日からは「東京・池袋線」「大崎・池袋線」の2路線が加わる。

 事業が軌道に乗れば、八潮市にある車庫を長野原町に移し、地元で人を雇うつもりだ。関東圏以外に路線を拡大する計画もある。

 社名やバスに冠する「Dts」は「ドリーム・ツーリスト・サービス」の頭文字。夢追い人という意味も込めた。「無理だと言われるような夢に、本気で挑戦したことは誇り」と冨沢さん。子どもたちが大人になったとき、「地元で働きたい」「起業してみたい」と思ってくれるような格好いい企業でありたいと願い、走り続ける。