ホテルの朝食バイキングでのことです。ファミリー向けホテルだったので、家族連れが多くいらっしゃいました。おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんそして子どもたちの3世代で、祖父母の世話をするお孫さんたちの立ち居振る舞いがほほえましく、家族の温かさを感じさせてくれました。

 そのうち、あることに気づかされました。温かい雰囲気の家族なのに、自分のトレーに食べ物をとってテーブルに置くと一人一人が勝手に食べ始めるのです。注意してみると、家族全員がそろってから食べ始める家族は私の周りには一家族もありません。

 お孫さんに取ってもらって最初にテーブルについているおじいちゃんやおばあちゃんがまず初めに食べだすのです。そうしてテーブルは一緒でも他の人たちも当たり前に一人一人で食べだします。

 家で通勤や通学の時間の都合で朝食が家族それぞればらばらになることは仕方ないにしても、せっかく家族旅行に来て一緒に食事をとれるのに、家族を待たずに一人一人が食べだす光景はショックでした。ほんの2、3分程度待つだけです。食事の前のあいさつも誰もしていません。

 封建社会の家長制度が厳しかった頃、家長のお父さんが箸をつけるまで、家族は食事を待つものでした。封建制度がいいとは言いませんが、食事の時くらい全員で、食物に感謝を表してから食べてもいいのではないでしょうか。

 合宿は食事時間が決められています。その時間に合わせ、一人一人がそれぞれに食べている光景を見ることがあります。せっかくの合宿ですから、私たちのチームは家族と一緒という気持ちで、選手全員が集まって、食物に感謝して食べるようにしています。

 寝食を共にするということは、それぞれの絆を強くするものです。社会の最小単位である家族が、お互いに助け合い、励まし合って生きていくことができなければ、この社会はどんなに良いことを掲げても発展することはありません。個人主義の弊害が叫ばれてもう何十年たったでしょう。隣に住んでいる人とあいさつすらしない社会が出来上がり、さまざまな精神的な障害が増えています。

 人は一人では生きていけないものです。まず家族の支えがあって社会に出ていけるのです。大人であっても一緒で、安心して帰っていける家族があるから頑張れるのです。「絆」を掲げているのを折に触れて目にしますが、その最小単位の家族が朝食すら一緒に食べられないという時代になっているのです。

 生きていく上で毎日食べていかねばなりません。その食事の時間をもっともっと大切に扱って、家族はもちろん社会の集団でも絆を作っていきたいものです。原点がおろそかになってはいけないとつくづく感じる朝食時間でした。



ヤマダ電機陸上競技部女子中長距離監督 森川賢一 吉岡町大久保

 【略歴】2012年から現職。13年から6年連続で全日本実業団対抗女子駅伝8位入賞。仏教大監督時の09、10年に全日本大学女子駅伝で連覇。京都教育大卒。

2020/04/26掲載