3月11日―。平成23(2011)年に発生した東日本大震災から9年がたちました。1万5899人が亡くなり、2529人の方々が今もなお、行方不明です。亡くなられた方々を悼み、行方不明者の早期の発見を願い、前橋神明宮にて毎年、慰霊祭を行っております。

 震災の日、私は所属していた劇団の公演期間中で、8日目でした。状況が分からないまま、交通機関のまひで役者が劇場に着けず、2、3回分公演が中止になりましたが、残りの公演は何とか乗り切ることができました。しかし、ある共演者の祖父母と連絡がつかなかったり、事態は常に緊迫していたのを覚えています。その後、ニュースなどで被災地の惨状を知ることになりました。

 時間が経過するにつれ判明する現状。何かできることはないか模索する自分と、日常に向き合った時、何もできない自分にいら立つ毎日…。情報が錯綜(さくそう)する中、あるニュースで「毛布が足りないんです。毛布をください」と涙を流しながら訴えるご老人の言葉を聞いた時、被災地に行くことを決めました。

 A市には足りている物がB市では足りない、という状況で正しい情報が分かりません。そこで、ボランティアする地域を一点に決め、その役場に連絡し、必要な支援物資を聞いてSNSに投稿し、全国に呼び掛けました。関東・関西へ物資を預かりに行った後、被災地へ向かいました。

 直接聞いたかいがあり、物資はすぐに使われましたが、現地の惨状にがくぜんとしました。来たからには絶対に役に立ちたいと思いました。「被災者に対して笑顔で接してはいけないだろうか」「掛ける言葉は何が良いのだろうか」「涙を流してはいけないだろうか」など、接し方を繊細に考えながらのボランティアでした。

 そうした最中にも、避難所からようやく戻ってきた、変わり果てた家を見た住人が隣で泣き叫んでいます。当事者たちの悲しみは計り知れるものではありません。外から来た私たちが涙するわけにもいかない、と涙を我慢して泥出ししたのを覚えています。

 たくさんの体験をし、たくさんの被災者のお話も聞きましたが、私が見聞きしたことは震災のごく一部ですし、報道されていることもごく一部です。それらをはるかにしのぐ多くの悲しみがあることを忘れずにいたいですね。

 震災で得た教訓をコロナウイルスの感染拡大にも生かせるはずです。虚言に惑わされず、過剰に物資を有しているなら困っている方々に分け与える心のゆとりを持ちたいものです。大切なのは優しさが生む助け合い。一人一人がもう少しずつ優しくなることができるならば、世界は大きく変わると信じています。言葉一つから、行動一つから、手を取り合って、諦めない。



前橋神明宮宮司 東野善典 高崎市西国分町

 【略歴】都内の大学を卒業後に12年間、役者を経験。県内で演技指導や演出、殺陣師もする。代々続く神職を継ぐため、6年前に帰郷。前橋、高崎の14社に奉仕する。

2020/04/11掲載