観光や地域づくりを考える上で、ロールモデルに欠かせないのがスイスです。

 米誌「USニュース&ワールド・リポート」が発表する「世界最高の国ランキング(2020年)」でも、スイスが4年連続で首位となりました(文化的影響力や生活の質、市民の権利、ビジネスの開放度などについて16年から行われている調査による)。

 今回は、なぜスイスが「世界最高の国」になったのかということについてお話ししたいと思います。

 今でこそ世界中から多くの旅行者が訪れているスイスですが、もとはヨーロッパのへき地でした。国土の約7割がアルプスの山岳地帯で平野が少なく、立地や資源に恵まれない地理ですが、外部から人が訪れはじめたのはイギリスの貴族の間で登山がはやった19世紀半ば頃からといわれています。

 それまで放牧しか生きる手段がなかったスイスの人々が知恵を絞ってお客さまを精いっぱいもてなすと、結果的に最も喜ばれたのは、都会では得られないゆったりした時間、自然と調和した素朴なライフスタイルそのものでした。

 かくしてスイスの住人は自分たちが誇るべき価値を再発見し、「ライフスタイルを観光資源として商品化」することに成功したのでした。

 これを機にスイスはあらゆる業種が観光産業と連携したマーケティングを行い、ブランド価値を高め、産業構造そのものを高収益体質に作り替えていきます。

 例えば高級時計メーカーなどの製造業は、職人技で手間をかけて価値を高めることで美意識の高いユーザーのみをターゲットとし、価格競争はせず、ブランドの価値を認めてもらう囲い込み戦略をとっています。

 どの分野にも共通するこうした経営体質が確立された理由の一つに「スイスクオリティーラベル」という品質保証制度があります。顧客満足度の向上を前提に経営努力を続けている企業や組織ほど評価される制度です。

 努力が可視化されることで、あらゆる地域や企業が質的向上を目指し、お客さまや市場との信頼関係を構築しています。

 訪問客が現地で質の高いサービスを受け、製品を購入し、豊かなライフスタイルを感じて自国へ帰ることで「スイス=高品質」という印象が世界中に広がると、サービスや製品がどんなに高くても売れ、リピーターも増えるという好循環ができるのです。

 この構図はどんなに小さな村や町でもしっかりと機能しているのも学ぶべき点です。

 国全体で世界中からLTV(顧客生涯価値)を得ようとする努力こそ、スイスが「世界最高の国」の地位を保っている秘訣(ひけつ)なのです。



グローバル観光戦略研究所研究員 大井田琴 高崎市石原町

 【略歴】民間企業、下仁田町観光協会を経て現職。同協会で日本版DMOの立ち上げに携わり、インバウンドの市場調査や国内外向け広報も担った。二松学舎大卒。

2020/03/15掲載