創立77周年を迎える群馬交響楽団。時代を重ねるごとに、上質な音色に磨きをかけてきた地方オーケストラの草分けは群馬県の誇りだ。ハーモニーを常にリードするのがコンサートマスター、伊藤文乃さん(53)=神奈川県藤沢市。音楽に対する情熱の源や、群馬県に感じる愛着とは―。

  ☆シリーズ「グンマスター」の記事一覧☆

地域の文化を担う楽団で

 

肝を据えて、一歩

 ―群馬との出合いは小学6年生。最年少で参加した第1回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバルまでさかのぼる。

 天狗山レストハウス(草津町)での演奏をよく覚えている。レストハウス内にちょっとした舞台があって、コンサートなどを開いていた。当時の団員さんに遊んでもらったことも良い思い出。時が巡り今、メンバーとして群響にいることは不思議な感覚でもある。

 ―2009年の就任時、群響の本拠地は群馬音楽センター(高崎市)だった。

 建物が近代的でアートな感じ。1、2階が区切られていないなど、いわゆる音楽ホールとは違った独特なホールだと思った。

 ―コンサートマスターのやりがいは。

 コンマスは「指揮者の音楽」を自分の呼吸を通して団員に伝える仕事だと思っている。指揮と、自分の表現したい音楽とがうまくかみ合ったときに、大きな喜びがある。同時に納得できる。指揮者や楽曲によってさまざまな思いやアプローチがあることから、それぞれに丁寧に対応する必要がある。

 コンマスとして舞台に立つ瞬間は今でも毎回、緊張する。(団員が位置に就き、最後に舞台に上がるとき)「始まったな」と肝を据えて、一歩を踏み出している。

 

おいしいお店 夫婦で開拓

 ―神奈川県藤沢市と高崎市の二つの都市を拠点に生活している。群馬県の印象や魅力は。

 客演コンマスとして群響に来たのは2007年。大型商業施設「高崎オーパ」もまだ高崎駅前になく、今より静かな印象だった。「東京や広島と比べて人が少なく、暮らしやすそう」と感じた。現在は、本拠地ホールの高崎芸術劇場などもでき、がらりと変わってにぎやかになった。

 変わらないのは空気の良さ。気分次第で、夜の散歩に出ることもある。夫とお酒と食事を楽しみに出て歩き、おいしいお店の開拓もしている。県産の野菜と肉の品質には驚いた。藤沢でも群馬産の野菜を見つけると、思わず手に取ってしまう。都内の焼き肉店で偶然、提供されたのが群馬産の牛。とってもおいしかった。このおいしさは、もっと宣伝した方がいい。野菜は枝豆が好き。片品産も食べてみたい。

 藤沢との行き来は在来線を利用することもあり、湘南新宿ラインでは籠原辺りから「群馬に戻ってきたな」という気持ちになる。

 

休日は「音、いらないなぁ」 

 ―オフの日はどんな過ごし方をしているか。

 プライベートの時間は音楽から離れていることが多い。動画投稿サイト「ユーチューブ」を見ることもある。子犬などの動物やメーク、歴史解説などジャンルはさまざま。リラックスのためには音楽は聴かない。仕事モードになってしまうから。職業柄か、喫茶店などで小さく流れるクラシック有線か何かのBGMは、くっきり耳に入ってくる。「音は、いらないなぁ」と思ってしまう。

 2年ほど前から「ハマって」いるのが長編の海外ドラマ「オスマン帝国外伝」。私のほかにもファンの団員がいて、2人の会話から徐々に楽団内でのブームが巻き起こった。たまに(ドラマ内で使われる)トルコ語が飛び交っている。

群響が本拠地とする高崎芸術劇場
ガラス張りのレッスンスタジオ

「第九」挑戦したい

 ―群響と地域との関係性をどう感じるか。

 映画「ここに泉あり」や移動音楽教室などが印象的。子どもへ音楽を伝える土壌があり、だからこそ、地域に根付いているのだと実感する。楽器を持ってお店に入ると、「群響さんですか」と声をかけられることもある。これって、すごいこと。地域の文化的な役割を担っていて、とても意味のあることだと感じる。

 ―飽くなき探究心は新しい挑戦にも向かっている。

 コロナ禍直前に声楽を始めた。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、レッスンに行けない期間もあったが、楽しい。気管を鍛えたいとも思った。歌うことで、さまざまなことを発散させている感じがする。ベートーベンの「第九」にも挑戦できたらいいなと思う。

 

草津の湯に感動

 ―群馬県内お薦めの場所は。

 以前から行ったことはあったが、あらためて草津の湯に感動した。源泉とされる宿の温泉に入った際、体がすーっと軽くなり「これはすごい」と。

 高崎では、やはり高崎芸術劇場がお薦め。開放的な造りで、全体が明るいのが好き。レッスンスタジオはガラス張りで丸見え(笑)。集中するときはカーテンを引きます。

 高崎の街中にある「手打ちそば 舞鶴」もお気に入り。おそばはもちろん、きんぴらがおいしい。そば焼酎「佐久乃花」をそば湯で割ると絶品。高崎オーパ内の「高崎じまん」で買い物をすることも。野菜や、榛名の梅干しなど品ぞろえが豊富で好き。

【プロフィル】いとう・あやの 1968年、東京都生まれ。桐朋学園大、スイス・ベルン音楽院で学び、97~2005年に広島交響楽団コンサートマスターを務めた。09年2月、群響初の女性コンサートマスターとして就任し、活躍を続ける。