2020年春に始まったコロナ禍で人々の観光行動は大きく変わりました。私自身、最初の緊急事態宣言後、1年半程度は本県から一歩も出ずに過ごしました。おかげでこれまで知らなかった県内の観光地を知ることができ、群馬への愛着が芽生えました。

 一方で気になったのが、観光に対して社会的に正しいか正しくないかという善悪の価値が付けられたこと。つまり、これまでは単純な趣味として捉えられていた観光が「モラル化」されたことです。

 例えば、緊急事態宣言中に県外へ旅行に出かけた人に対してインターネット上などで批判が集まりました。逆に「Go To トラベル」キャンペーンが始まると、経済復興のため観光を推奨する報道が増え、旅行しない人に対し非科学的にウイルスを怖がって経済を止めていると批判するコメントも増えました。

 特定の行動に対するモラル化は、コロナ下での観光が初めての例ではなく、過去には喫煙や海外における菜食主義に対して同じような変化が報告されています。

 この問題点の一つに、モラル的な行動をする人としない人の間で互いへの批判を招き、社会的な分断を起こす可能性が挙げられます。例えば、以前は喫煙者と非喫煙者は共存していましたが、今では喫煙所が設けられ、物理的にも分断されています。

 ある行動がモラル化されるのには、その行動に対する「認知」や「感情」などいくつかの要因があると言われています。逆に、モラル化を防ぐ要因として、周りの人の行動に合わせようとする「社会適合性」や「健康上の理由」などがあります。

 例えば、健康上の理由から肉を食べることを避けている人は、自分は肉を食べないけれど他人が食べるのは許せる、と考える確率が高く、逆に動物愛護など道徳的な理由で菜食主義になった人は、肉を食べる他人を批判しやすいと言われています。

 ただ、新型コロナに関して複雑なのは、旅行するかしないかの選択において「健康上の理由」(自分自身の予防)と「道徳的な理由」(身近な人への感染を防ぐ)が重なるところが大きい点です。実際に調査すると、喫煙や菜食主義と違い、この二つの理由を区別することができませんでした。今後さらに研究する必要があると考えます。

 幸い最近は、ワクチンの普及などで観光地に人が戻ってきているようです。本来観光は余暇として個人が楽しんだり学んだりするためのものです。「地域経済のため」という義務感や旅行しない人への批判、マナーを守って観光している人への批判などは、本来の目的から外れていると考えます。

 観光が早く、それを楽しみたい人も興味がない人も互いを批判しない、純粋な「趣味」に戻ってほしいと願います。

 【略歴】専門は観光人類学。2020年から現職。大泉町のブラジルタウンや富岡製糸場も研究対象にする。徳島県出身。米・テキサスA&M大大学院博士課程修了。

2022/7/16掲載