▼旅と酒を愛した歌人若山牧水が実は釣り好きだったことはあまり知られていない。宮崎県日向市の山村に生まれ、両親がともに釣りをした。家のすぐ前を川が流れ、牧水も幼い頃から釣りに親しんだ

 ▼歌集『黒松』に「鮎(あゆ)つりの思い出」と題する連作がある。〈上(かみ)つ瀬と下(しも)つ瀬に居りてをりをりに呼び交しつつ父と釣りにき〉。夏になると父とアユを釣った

 ▼本県でもアユ釣りがシーズン本番を迎えた。西毛地域の人気河川では長い竿(さお)を持った釣り人の姿をあちこちで見かけるようになった。アユは香魚とも呼ばれ、塩焼きは絶品だ。釣りをせずとも、簗(やな)で鮎尽くしに舌鼓を打つのもいいだろう

 ▼今季は良い知らせが二つ届いた。一つは利根川を遡上(そじょう)する稚魚の数が例年になく多いこと。理由は定かでないが、利根大堰での観測数は昨年の12倍、19万匹に上ったという

 ▼二つ目は県水産試験場が「冷水病」への耐性を高めた新系統のアユを開発したこと。広く分散する“遡上性”も備えており、今年から放流が始まった。近県との差別化で県外の釣り客を呼び込むきっかけになるといい

 ▼〈釣り得たる鮎とりにがし笑ふ時し父がわらひは瀬に響きにき〉。父と釣りをした思い出は、牧水の心を終生温めたことだろう。後に豊かな自然に引かれて本県を訪れ、「みなかみ紀行」を書き記すことになったのも、少年時代の体験が原点にあったのかもしれない。