宿泊客が飲食店の口コミを貼り付けた地図の前に立つ鈴木学さん(左)と紀子さん

 伝統的な綿織物「館林紬(つむぎ)」をあしらったインテリアや、木の無垢(むく)材の家具がぬくもりを感じさせる。館林市の東武館林駅前、7階建ての「館林ヒルズホテル」。副社長の鈴木紀子さん(45)の父で、市長在職中に亡くなった安楽岡一雄さんが残したホテルは、手作りの優しい空間が宿泊客を迎える。

 2017年2月の安楽岡さんの死後、ホテル運営企業との契約終了を見据え活用方法を探った。大手チェーンの傘下に入る案もあったが「困難でも自分たちで再出発しよう」(紀子さん)と家族経営を決断。大学の同級生だった夫の学さん(46)も宿泊業界は経験がなかったものの、前職は転勤が多く、館林への移住は「苦にならなかった」。19年春に退職し、本格的に準備を進めた。

 東京五輪の当初の開幕予定だった20年7月より前の開業を目指したが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で資材到着が遅れた。先行きが見通せず、周囲から「本当にやるの」と心配されたが、「引くに引けない」(紀子さん)と同8月にオープンした。

 内外装ともアースカラーを基調に落ち着いた雰囲気にした。「ヒルズ」の名は市街地から一段高い立地に加え、父が愛したつつじが岡公園への思いを込めた。紀子さんの名刺には旧姓「安樂岡」が記してある。

 調度品にこだわった一方で、自分たちでできるものは手作業で設置した。「照明の修理もスタッフ自ら、はんだごて片手にできる」と紀子さん。ロビーの壁の大きな地図には、周辺の飲食店の口コミを宿泊客が貼り付け、コミュニケーションを図っている。

 ビジネス利用を当て込んだが、開業当初は60の客室に対し宿泊客が1日1桁の日が続いた。それでも忙しさから市内の自宅に帰れず、最初の1年間は空き室で仮眠する日々だった。コロナ禍を「仕事に慣れる時間ができた」と前向きに捉えた。「スタッフに助けられて何とかやってこられた」。社長を務める学さんは、自ら面接して採用した22人に感謝する。

 ビジネス客を中心に客足は伸びている。景気の影響の少ない食品関係の工場が近隣に多いことも幸いした。開業から2年たち、2人は手応えを感じている。

 課題は週末や休日の稼働率向上だ。今後は日本遺産「里沼」を生かしたモデルコースを関係者と検討するなど、地元の観光振興に結び付けたいと未来を描いている。