「しょうゆは素材を生かしてくれる。世界でも珍しい香りとうまみのバランスが取れた調味料」と話す高橋さん
職人醤油で取り扱う安中市の有田屋(右)と岡直三郎商店の濃口しょうゆ

 日本人の食卓に欠かせない調味料、しょうゆ。さっぱりした刺し身から、こってりしたステーキまで、幅広く利用される一方で、日常でしょうゆの味に注目する機会はそれほど多くない。前橋市西片貝町のしょうゆ専門店「職人醤油(しょうゆ)」代表、高橋万太郎さん(41)に特徴や楽しみ方などを聞いた。

全国の蔵巡る

 しょうゆは大きく6種類に分類される。熟成期間が短い順に①白②淡口③甘口④濃口⑤再仕込⑥たまり―と分けられ、それぞれに特徴がある。「食が好きな人でしょうゆにこだわらないのは、もったいなさすぎる。料理ごとに使い分けをしてほしい。食事がすごく楽しくなる」と力を込める。

 高橋さんはしょうゆと料理の関係を、ワインと料理のマリアージュに例える。白と淡口は白ワインのイメージで、白身魚などの素材の彩りや風味を生かしたさっぱりした料理に合わせる。

 逆に濃厚な再仕込やたまりは赤ワインのイメージ。赤身の魚や脂身の強い肉との一体感を楽しめるという。「素材それぞれに合うしょうゆがあることに気付いていない人が多い。回転ずしも、しょうゆを変えるだけですごくおいしくなる」と熱弁する。

 職人醤油は全国400カ所の蔵を巡り、現在は60社ほどと取引している。取り扱うのはどれも個性のある商品だが、高橋さんはしょうゆそのもの以上に、しょうゆ造りに関わる人々の魅力にほれ込んでいる側面がある。しょうゆ職人はものづくりが本当に好きで純粋な人たちが多く、良くも悪くも自己主張と商売っ気がないという。

 実際、あまり高く売れず、高橋さんも最初の3年ほどは商売が軌道に乗らなかった。一方で、同じく醸造品で製造工程が似ている日本酒には高値がついて取引されている。「しょうゆ職人はすごくいい人たち。その割に評価されてない。もっと高く売れる価値があるはずなのに安いものと思い込んでいて、ギャップを感じている」と現状を嘆く。

世界から再注目

 高橋さんは木おけで醸造したしょうゆの振興、発信にも力を入れる。江戸時代までは、しょうゆなどの基礎調味料は木製のおけで造られていたが、費用対効果の点から減少し、金属製やプラスチック製を使うのが主流になった。

 高度経済成長期はそうした設備を導入しなければ時代遅れという風潮だったが、近年になって受け入れる流れが生まれてきた。若手の醸造家を中心に木おけ仕込みを見直すようになってきている。

 木おけ仕込みでは、木材の表面ならではの凸凹に発酵に必要な微生物が生息できる。歴史の積み重ねや蔵の気候風土によって蔵独自の生態系が生まれ、クラフトビールのように多様な個性をつくり出す。だが、機械化の流れの中で木おけを作る職人の多くが廃業し、現存する木おけも残り数十年で使えなくなる見込みだ。そんな中、大阪府に残る木おけ職人の下で技術を学ぶ人が現れるなど、文化を残そうという動きがあるという。

 「同じ材料でも木おけが変わると味わいが異なるとも言われる。海外メディアでも取り上げられ、世界から再注目されている」と期待する。

 木おけ仕込みのしょうゆは、商品ラベルに表記されているものもある。職人醤油では、さまざまな蔵の木おけ仕込みしょうゆを組み合わせたセット販売もしている。

 しょうゆ蔵見学 しょうゆを造る蔵を見学できる場所もあり、県内ではみどり市の岡直三郎商店などで実施している。独特の香りに包まれながら、時季によって巨大なおけでの仕込みや発酵する様子を見ることができる。繁忙期や仕込み期間の一部では見学を受け入れていないため、事前に連絡し確認するのがお勧め。

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