前回(6月3日付)、公共施設の設計者選定の方法と実施状況について述べました。

 繰り返しになりますが、入札方式は設計価格を安く提示した者が受注し、プロポーザル方式は最も適した提案書を示した者が受注します。他にも設計案そのものを競う設計コンペ方式や決め打ちで設計者を指名する特命方式などがあります。

 入札方式とそれ以外の違いは設計料の多寡で選ぶか、提案内容や能力を評価して選ぶかという点で、後者の方がはるかに高い費用対効果を得ることができます。

 これを裏付けるものの一つに、日本建築学会作品選集に掲載された建築作品を対象とした設計業務に関する入札・契約方法の調査があります。日本建築学会が実施したこの調査によると、入札方式による作品の割合は、公共建築では5%、民間建築での入札はありません。合わせると入札割合はわずか2%にとどまり、残りはプロポーザルやその他の方式によるものです。

 この結果から直ちに建築の良否を判断すべきではありませんが、少なくとも日本建築学会が選考した作品選集からは入札方式を採用する妥当性は見いだせません。

 一方で地方自治体の公共施設における設計発注は、入札方式が大半を占めています。税金を効果的に使う観点からも入札からの脱却が必要です。ちなみに、国は新築の設計発注では入札方式を採用していません。

 入札によらず能力で選ぶと「高額な設計料が必要では」という懸念が生じるかもしれません。

 設計料は企業努力が反映される部分もあるものの、基本的には業務の内容で規定され、市況では大きく変動しません。そのため、料率が法律に明記されている国もあります。日本でも「建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準」が、国土交通省告示98号に規定されています。国や地方自治体もこの告示にならって設計の業務報酬基準を定め、それに基づき予算措置をしているので高額な契約にはなりません。

 前回引用した「官公庁施設の設計業務に関する実態調査2017」によると、地方自治体でプロポーザル方式を積極的に採用しない理由のトップは「設計費用をできるだけ安く抑えたいため」です。他にも「プロポーザル方式を採用する必要性が分からないため」があり、前述のことが広く理解されるよう望みます。

 そもそも「あなたが最も設計料が安かったから頼みます」というのと、提案や能力が評価されて「あなたを見込んで頼みます」というのでは、頑張り方が全く違うのは明らかです。

 プロポーザル形式を採用したからといって優れた公共施設が生まれるわけではありません。次回は質的価値を高める方策について述べます。

 【略歴】1979年、県入庁。定年退職後も全国の自治体や各種団体の設計者選定に関わる。主な受賞歴に土木学会デザイン賞、これからの建築士賞など。

2022/7/27掲載