前回の「視点」(6月8日付)を受けて、85歳の読者の方が、初めて映画館で映画を見た時の思い出を「みんなのひろば」に寄せてくださいました。

 戦時中の小学1年生の時のことで、映画館の名前も作品のタイトルも、誰と見に行ったのかもはっきりと覚えておられ、さらに、かつて前橋の街中にあった映画館の名称と場所を鮮明に記憶していらっしゃることに感激しました。やはり幼い頃の映画館体験は、時を経ても色あせないのだと感じ入りました。そして、現代の若い世代の皆さんに映画館で作品を見てほしいという思いを強くしました。

 映画は大きなスクリーンで見ることを想定して作られています。そこには家庭用のテレビモニターやスマートフォンの画面では見逃してしまう膨大な情報が込められているのです。

 先日、小中高校生にミニシアターを知り、訪れてもらうための取り組み「夏休みの映画館2022」(29日~)の開催を前に、記者会見を行いました。その中で、記者から次のような質問を受けました。「日頃から10代の観客に映画館に来てもらうための工夫はしていますか?」

 当館は昨年9月、「若者へ映画を贈るクラウドファンディング」と題した新たな取り組みを行いました。映画を見に行きたい若者を、大人が費用面で支える仕組みです。

 若い人に訪れてほしいとの思いは開館当初からありました。取材や見学で当館を訪れる高校生や大学生にミニシアターのイメージを聞くと、「大人の行く所」「気になってはいるけれど、見に行くきっかけがつかめない」などの声が上がりました。

 若者との接点をどうつくっていくか。試行錯誤する中で「見に行きたいけれど、映画のチケット代と交通費を小遣いからまかなうのは大変」という声を聞きました。そこで、ミニシアターを訪れるきっかけづくりの一つとして、支援してくれる大人と支援を受けたい若者をそれぞれ募集したのです。

 この支援を受けて、県内の高校生9人にミニシアターで映画を見てもらうことができました。彼女たちは独学で映画を勉強して作品の自主制作に取り組んでいる仲間で、将来は映画監督や俳優を目指しているそうです。この中の1人はその後も当館に通っています。「今までDVDや配信で見ていたお気に入りの作品を改めて映画館で見てみたい」と感想を寄せてくれました。小さな動きですが、映画館で作品を見る楽しさを届けられた実感を得ました。

 映画を見ることは新しい世界を知るきっかけにもなります。今後はクラウドファンディングという一過性のものではなく、支援する側も受ける側も、そして映画館も、持続可能となる仕組みづくりを考えていく必要があります。

 【略歴】大学卒業後の2001年に高崎映画祭のスタッフになったのをきっかけに、04年のミニシアター「シネマテークたかさき」開設時から副支配人。14年から現職。

2022/7/30掲載