精神疾患の一つ、非定型精神病を経験した漫画家、松原千波さん(55)=群馬県玉村町=の作品「ある日、自分の脳から声が聞こえたら―非定型精神病を患ったマンガ家の27年―」(小学館)が、各電子書籍媒体で配信されている。幻聴に悩まされた自身の闘病生活を描いたエッセー漫画で、「必要な人に広まってほしい」との思いを込めた。医療関係者や患者家族からの反応もあり、作品は同じ疾患を持つ患者への理解を深める手助けになっている。

 松原さんは19歳で漫画家デビュー。20代で雑誌に連載作品を掲載し、家族のために家を建てるほど「はたから見たら順風満帆」の生活を送っていた。

 非定型精神病を発症したのは28歳の時。幻聴や妄想に悩まされ、自殺未遂などで入退院を繰り返した。当時は精神疾患に対する周囲の理解も少なく、「どうして私が(非定型精神病に)なったんだろう。どうして、どうしてと考え続けた」と振り返る。

 闘病を続けたのち、日常生活を問題なく送っていることなどから、40代半ばで寛解を告げられた。「妄想や幻聴のなごりが自分の中に巣くっている感覚は一生抜けないと思う」としながらも、「いつか自分の経験を作品にしたい」とエッセー漫画の執筆を決めた。

 壮絶な体験を思い返し、エンターテインメントとして読者に伝える作業は「心にさざ波が立つような」仕事だったが、「私の漫画に共感してくれる人もいるはず」と描き続けた。

 5月に1巻が配信されると、医療関係者などから好意的な反響があった。精神疾患を持つ患者の家族からは、「幻聴などにとらわれている当事者の心の内はどんなものか、作品を読んで目からうろこだった」との感想が寄せられたという。

 松原さんは、患者が自身の考えを言語化することは難しいと指摘。「家族にとっては何を考えているのか分からず、支離滅裂な言動をくり返す患者に対して『壊れてしまった』『もう戻って来ない』と思うのではないか」とする。

 作品では、「私の中にいる」という妄想や幻聴について分かりやすく解説している。「患者は患者なりの論理があって行動している。そのことを知ってもらえるだけでも、接し方が変わるのでは」と話す。

 作品は20以上の媒体で配信している。税込み286円。2巻は秋ごろ配信予定。