「生命への畏敬」という言葉をご存じでしょうか。哲学者であり神学者、医師、音楽家でもあるアルベルト・シュバイツァー博士の言葉です。

 牧師の子として生まれたシュバイツァー博士は、30代から長くアフリカ・ガボンで医療に従事しました。冒頭の言葉は、命あるもの全てを価値あるものとして尊敬し、共に生きようという考え方によるものでしょう。身の回りにある命の存在やその尊さを、改めて考えさせられます。

 私たちは生きていることが当たり前で、日常で命をありがたいと考える瞬間はあまりないかもしれません。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻では多くの命が失われています。

 身近な問題として、保護者による虐待や周囲からのいじめで命を落とす人もいます。交流サイト(SNS)などの誹謗(ひぼう)中傷が原因で自死してしまう事案も後を絶ちません。

 私は生まれつきの難聴です。補聴器を付けていたことでいじめの対象になりました。容姿を揶揄(やゆ)するあだ名も付けられ、嫌な思いをしました。いまだにそのあだ名で呼んでくる人がいて、とても悲しい気持ちになります。そうした経験から、自分がされて嫌なことはしないと固く心に誓っています。

 補聴器を付けたのは小学5年の時です。それまでは先生の話がよく聞こえないため授業を十分理解できず、宿題を出されたのも分からないような状態でした。当然、成績はオール1か2の劣等生でした。しかし、補聴器を付けたらよく聞こえるようになり、勉強に力が入るようになりました。難聴のため憧れた医学の道は閉ざされていましたが、薬学の道へと進みました。

 薬剤師の国家試験の問題集は、問題と解答・解説をバラバラにして何度も繰り返しました。間違えたら解説をよく読み、紙に書いて覚え、また最初から繰り返しました。人一倍、努力し、無事合格することができました。

 この経験から得たのは、どんなにつらくても、我慢強く努力を続ければおのずと道が開けてくるということです。挫折感を跳ね飛ばしながら行動を起こし、「自分はやれる」と自信を持ちましょう。心に描いた計画を強固な決意で成し遂げるため、右顧左眄(うこさべん)せず、気力を振り絞って挑む人だけが、望んだ結果を勝ち取れるのです。

 今つらい思いをしている方も、決して諦めずにぜひそうしてみてください。私にできたのですから、きっとあなたにもできます。

 松尾芭蕉の句に〈やがて死ぬけしきは見えず蝉(せみ)の声〉があります。命のはかなさや無常を感じると同時に、命の輝きを考えさせられます。

 皆さんは自分の命を大切にするとともに、常識ある行動で、いじめなどで苦しんでいる人を助け、周囲の大切な命も守ってください。

 【略歴】生まれつきの難聴を抱える。薬剤師。介護事業のアライ社長。障害福祉施設を運営する一般社団法人篤厚会代表理事。東北薬科大(現東北医科薬科大)卒。