「夜勤もあり人手不足。外国人を重宝していた」。伊勢崎市の工場関係者はそう説明した。不法滞在のベトナム人やフィリピン人が、工場の派遣社員に紛れていた。摘発されていったのは8月。働き手を失い、食品製造ラインは減産に追い込まれたという。
派遣元への裏付け捜査を進めた県警は今月12日、オーバーステイを承知で働かせたとする入管難民法違反(不法就労助長)容疑で、ブラジル国籍男で同市の派遣会社「マルハチ」社長、タケダ・アルバロ・ノブイチ容疑者(61)=同市=らを逮捕した。関与した不法滞在者の洗い出しなどを進めているもようだ。
不法残留容疑で逮捕された派遣社員6人は市内に住んでいた。関係者によると、就労できない短期ビザなどで入国し、在留資格が切れて5年ほど経ち、偽造された在留カードを所持していたという。県警は、口コミなどで同社を知って市外から集まったとみている。
「雇用と住居があるから暮らせる」と捜査関係者。不法滞在だと知った上で雇い入れ、社宅をあてがうなどする業者が他にも潜んでいると考える。働き口や同言語の仲間を頼って来る不法滞在者が今、「伊勢崎で増えている」と語る。
市内で昨年、大規模な大麻栽培工場が摘発された。2020年夏には同市を含む本県近郊で家畜や果物が相次ぎ盗まれた。関与したベトナム人集団に、どちらも不法滞在者がいた。
こうしたオーバーステイの外国人は同市だけで千人とも、それ以上とも指摘される。県によると、永住や技能実習など県内で適法に暮らす外国人は昨年末時点で約6万人、うち伊勢崎だけで約1万3千人。これに加わり、紛れている。
取り締まりに当たる伊勢崎署は昨年4月、日本人も外国人も共に安全に暮らせる環境を守ろうと、23人体制のチームをつくった。
定住者や技能実習生には犯罪に巻き込まれないよう、多言語のラジオやチラシで防犯を呼びかける。外国人と警察の直接の接点となる交通安全教室も重ねた。車検切れや盗難車、ナンバープレートの付け替えといった不法滞在者の足となる不正車両を警戒して、集住するとみられるアパートの個別訪問を進め、不動産の管理者とも地道に関係を築こうとしている。
政府は今月、新型コロナ対策の入国制限を緩和し、来日外国人は増える見通し。失踪者が相次ぎ、企業側の法令違反も目立つ技能実習生制度の見直しも打ち出したが、実効性は定かでない。現に県民の身近に潜む不法滞在者への政策的アプローチもまた、見えてこない。