私が代表を務めるNPO法人時をつむぐ会は、「絵本は子どもが出合う最初の文学であり芸術です。くり返し読んでやることで子どもの叡智(えいち)を養います」という理念の下、絵本を家庭に届ける活動を30年にわたって行っています。
こんなことを言うと、さぞ小さい頃から本の虫だったのではないかと思うかもしれません。実はそんなことはありません。
私が絵本に触れるようになったのは、子どもが生まれてから。最初は高崎駅前にあった初代「本の家」の客の1人に過ぎませんでした。しばらくたった頃、本の家が閉店することに。大ピンチです。これから一体どこで本を買ったらいいのでしょう。
そこで、本の家を引き継ぐことになりました。今考えても突拍子もない決断でした。しかも、本って売れないのですね。本屋になって初めて知りました。どうやって食べて行けばいいの、とまたまたピンチでした。
頭を抱えている時、出版社の方に「種まきをしないとね」と言われました。福音館書店で社外講師をしている大学の先生を紹介してもらい、絵本の勉強会を開くようになりました。絵本に興味を持ってほしくて、絵本のことや子どもに読んでやることの喜びなどを保育園や幼稚園の先生、保護者に聞いてもらいました。「絵本や児童文学は子どもの本だけれど違うぞ、すごいものだと認識してほしい」との思いでした。
そして絵本を家庭に届ける活動を始めました。活動は他に、絵本原画展の開催と子育て支援、観音山公園ケルナー広場の運営です。活動の幅は徐々に広がり、後継者も育っています。
私に経営の才能があったわけではありません。原画展の企画料が350万円と言われ、初めて業界の常識を知り驚いたこともありました。でも、何も知らない主婦だったからこそやってこられたと思っています。何かに縛られることなく、やりたいと思うことに果敢に挑戦できました。「この絵本の原画が見たい!」「市長さんに会ってやりたいことを伝えたい!」。怖いもの知らずなんですね、私。
おかげで出版社の方やたくさんの絵本作家にお会いすることができました。あのエリック・カールさんにも原画展に来ていただきました。
美術にしろ音楽にしろ、文化的な活動は、なくても生きていける。でも、知っていると生きることが楽しくなる。ものの見方が広がるのです。だからこそ必要なものだと考えます。
絵本や児童書を知ることも人生を豊かにする一つの方法です。ましてやこれから人生をスタートさせる子どもたちにはなくてはならないものだと思います。どんなに世の中が便利になっても、やはり親をはじめとする、心を許せる大人の声で絵本を届けてやることは大切なのです。
【略歴】1983年、高崎市の子どもの本専門店「本の家」を引き継ぐ。94年に時をつむぐ会を結成。95年から同市で絵本原画展を毎年開催。北海道出身。
2022/11/03掲載