「心の声が聞こえましたね」。
はす向かいの席に座る同僚がこう声をかけてきたのは11月24日の午後10時を回った頃だった。普段と違う疲労感を覚え、翌日入っていた深夜勤務当番を小声で愚痴ったのが聞こえてしまった。
いつもと違う
前日、前々日は新聞紙面製作の最終時間帯までの勤務。特に前日はサッカーワールドカップで、日本がドイツに劇的な逆転勝利を飾った歴史的な日だった。感動を読者に伝えるため、締め切りを普段より後ろ倒しして編集作業に当たった。紙面を作り上げ、達成感のある仕事ができたのに。いつもと違う体調の異変に胸騒ぎがした。
そういえば、運動不足解消のために、ちょっと長めの散歩をしたんだよな。それとも年のせいか―。
よく寝ればきっとすっきりするさ。思い直して帰宅すると、家族が「コホン」とせきをする音が聞こえる。あれ、もしや。込み上げる不安より早く床に就きたい思いが勝り、早々に食事を済ませて布団をかぶった。
「大丈夫だろう」
疲労感が倦怠感に変わったと自覚した25日朝、体温計を脇に入れると、37.2度を表示した。新型コロナを疑い、かかったことのある地元のクリニックに電話すると、「来るときは車でいらしてください」と指示を受ける。せきをした家族は38度あるという。自らハンドルを握り家族と一緒にクリニックに向かった。
実はオミクロン対応の4回目のワクチン接種を10月28日に受けていた。これまでもワクチンは早め早めに打っていた方だ。「これでしばらくは大丈夫だろう」。心のどこかで油断していた。
車での来院を求められたのは、クリニックの建物に自分たちを入れられないからだったようだ。青い防護服を着た医師から説明を受け、すぐさま鼻の粘膜で検体を取る抗原検査を受けることに。車のシートに座ったまま窓を開け、車外から手を伸ばす医師に顔を向ける。
穴埋めをお願い
「はい、2本線が入っています。陽性ですね」。2人ともコロナ陽性の判定が下った。代金を支払おうとしたら「お金の受け取りもできないことになっていますので」。後で振り込むよう指示された。そうですか。仕方ないですね。
自宅に戻り、コロナ陽性となり急に出勤できなくなったことを上司に電話で報告しながら、仕事の穴埋めをお願いする。初めてのコロナ感染で弱気になっていたせいか、かけてもらったお見舞いの言葉や社内ネットワークのメッセージが心にしみた。
結論はまだ
まだ「ゾコーバ」を手にできるはずもなく、クリニックで処方されたのは頼んで出してもらった解熱鎮痛薬のみ。熱が上がったら飲もうと思っていたが、判定を受けた当日の37.9度が最高だった。薬に頼ることはなく、ひたすら布団で眠った。せき、喉の痛みなどの症状は3日目にはほぼ消えた。家族は若さのせいか、回復はあっという間だった。
4回目を打ったのに。いや4回目を打ったからこそ、この程度で済んだのか。自分自身で結論を出せるのはもう少し先になりそうだ。