犬はなぜ、人と暮らす中で問題行動を起こすのでしょう。
まず知ってほしいのは「問題行動とは何か」ということです。日本獣医動物行動研究会は「飼い主またはその動物と関わる人たちが問題と感じる行動、あるいは人間社会と協調できない行動」と定義しています。
問題とされる多くの行動は犬として当たり前の行動であり、本来問題ではありません。危険が迫った時にほえたり、かんだり、逃げたり、物を守ったり、物音がしたら威嚇・警戒したりするのは自然な行動です。あくまでも人間社会にとって不都合な行動を問題行動と言っています。
山の中の一軒家でほえても、飼い主が気にしなければ誰の迷惑にもなりません。となると問題行動とは言われません。しかし、集合住宅などで過度にほえることは問題行動とされます。問題行動とは人目線であり、犬の目線ではないのです。
とはいえ、問題を起こしても仕方がないというわけではありません。これを理解した上で、なぜ問題行動が起こるのかを知ることが重要です。
犬にとって自然な行動と述べましたが、簡単に言えば、犬がいるというだけの暮らし方や間違った知識での接し方・しつけをしたり、やらなければならないことをやらなかったために、過度にほえたり、うなったり、かんだりという犬らしい自然な行動を表すようになってしまうのです。
では、犬らしく生きるのではなく、人間社会に無理なく適応するように、また、問題を起こさないようにするために絶対にしなければならないことは何でしょうか。問題行動を起こす犬に共通している点が「社会化」の不足です。
社会化とは、生後3週齢から12週齢くらいまでの間に、今後出合うであろう物事や環境(人、犬、猫、物音、病院、散歩コースなど)に慣らし、当たり前の物事として吸収させ、心を豊かにしていくことです。犬の性格形成に大きな関わりがあります。
人や他の犬を怖がる犬は、この時期にあまり人や犬などと接触しなかったために、その存在を吸収できず、近づいてほしくなくて威嚇や警戒としてほえます。屋内では楽しそうに遊べるのに、屋外に出ると固まってしまいます。散歩ができないという犬は、この時期に屋外に出る機会が少なかったなど、さまざまな環境に出合わせることができなかったのが原因です。当然、これは犬のせいではなく、飼い主や専門家の知識不足が起こしている問題なのです。
どのような子犬でも社会化をしっかり行うことが、問題行動を起こさないための第一歩です。これを理解し、専門家の下で実践することが大切です。伝染病などの予防でも重要な時期ですから、社会化と病気予防を両立して考えてくれる獣医師との連携も必要です。
【略歴】動物看護師として動物病院勤務を経て2002年に独立し、高崎市で「けあかんぱにー」を開業した。犬のダイエットや高齢犬の筋力アップなどにも取り組む。