昨年11月、みなかみ町のJR水上駅前に一軒の店を開いた。新刊本を扱う書店の機能を持ち合わせつつ食事やお茶を楽しむことができる、いわゆる「ブックカフェ」と言われる業態の店舗だ。
この立地と業態を選んだ理由はいくつかあるが、大きくは過疎地域における商店街の「卵が先か、鶏が先か」問題に対して一石を投じてみたいという思いがあった。
お客さまが来ないから商売が成り立たない。経営の視点で捉えれば至極当然だが、店がないからお客さま(観光客)が来ない、と考えることはできないか。遠くからでも行く価値のある店であれば、地域全体の交流人口を増やすことにも寄与できる。
先日、台湾へ出張する機会があった。現地での活動スケジュールの合間を縫って気になる店を訪ねてみた。
そこは台湾特有の混沌(こんとん)と洗練が入り交じった強烈な個性を放つ文房具店。店内には「Made in Taiwan」と記されクールなデザインが施されたボールペンやノート、台湾の伝統的なイラストモチーフで構成されたポーチやポストカードといった小物が並んでいた。この店の空気に触れた時、ワクワクとときめきと共に台湾へ来ることができて良かったと直感できた。この店の存在が台湾のイメージを格段に押し上げたのだ。
観光のまちにおける店づくりに至っては、これと同じことが言えるのではないか。歴史や文化、風土、伝統など、地域そのものがまとう唯一無二の個性を凝縮させ、それを店づくりに反映させることができれば、海を越えて遠くからの来店を望むこともできるだろう。人口の多くない地域で店を運営していくヒントがここにあると考える。
マーケティングで言うところのプロダクトアウトの手法に近いが、一方的な個性の押し付けであってはお客さまがうっとうしく感じるだけで意味がない。持続的な店舗運営を検討する上では、「地域ならではの食を楽しめる」「他では買えない土産を買うことができる」「電車の待ち時間に立ち寄れる」など、お客さまニーズに対応するマーケットインの思考も忘れてはならない。
ローカルで商売を行う際には、便利さや手軽さよりも、世界でここにしかないという個性を価値に置き換えることが最も重要だ。そして、この個性を売りにした店を一つから二つ、そして三つ、四つと増やしていくことができれば、地域の特性や特色を存分に生かした、面としてのまちづくりができるはず。その一軒一軒にファンができて、国内外どこからも旅の目的となることができれば地域の未来は明るい。
シャッターの下りた商店街は、店舗がひしめく都市部よりも、そのような可能性の宝庫であると考えている。
【略歴】広告会社勤務の傍ら、みなかみ町のヒトモノコトの源流を伝えるウェブメディア「GENRYU」を開設。マーケティングの手法で地域活性に取り組む。