1997年に廃線となったJR信越線の横川―軽井沢区間(碓氷線)を歩く「廃線ウオーク」。通年開催されている観光イベントで、碓氷峠周辺の鉄道遺産群と峠の自然の四季の移り変わりを満喫できる。立ち入り制限されている新線区間を散策できるとあって、鉄道ファンをはじめ、多くの観光客が訪れている。
碓氷線の約11キロ、高低差約550メートルを約6時間かけて歩く。上り線と下り線の2コースが用意されている。下り線コースでは、千メートル歩くと66.7メートルの高さまで登る66.7パーミルの最大勾配の厳しさを体感できる。
一部の信号機は今も点灯可能で、黒光りするレールが遠くまで続いている。今にも電車が走ってきそうな雰囲気だ。足元を見ると片側のレールが遠心力によって動き、分厚いコンクリート製の枕木が斜めにずれている。重さが約108トンもあったEF63が走ると、レールを固定する装置の棒が折れることもしばしばあったという。ガイドの松本匠平さん(23)は「保線作業員の話では、棒を交換する作業が一番大変で、仕事として最も多かった」と当時の様子を解説する。
上り線は11本、下り線にトンネルが18本ある。長さ1200メートル以上のトンネルを進むと光が届かない暗闇の世界。電車のヘッドライトが迫ってきそうな錯覚に陥り、スリルとともに冒険心が湧き出てくる。トンネルの暗さを生かし、碓氷線で峠越えに挑んできた鉄道員の証言を集めた記録映画を上映している。
初参加の菅崚乃介さん(21)=千葉県船橋市=は「細かいところを説明してくれるので歴史が学べた」と話していた。
線路沿いの木々が芽吹き始め、新緑を楽しめる季節が訪れる。運が良ければ、峠に暮らすニホンザルやニホンカモシカなど野生動物との出合いもあるかもしれない。
廃線ウオークのガイドで安中市観光機構の上原将太さん(31)が中心となってサポーター制度を立ち上げた。鉄道を愛する参加者から要望があった、下草刈りなど廃線整備の作業を一緒に体験できる制度で、県外からのボランティア客を呼び込む考えだ。
昔の電気機関車を模したEVレールカートも実現に向けて走り始めた。さまざまな形で楽しめるようになることで、保存と観光振興の両輪がうまく回っていくだろう。
【データ】参加費用は7700円~8200円。別途、装備品レンタル代(ヘルメット300円、ライト500円)、トロッコ列車乗車券と鉄道文化むら入園代(計1400円)、峠の湯入浴代(700円)が必要。問い合わせは安中市観光機構(☎027-329-6203)へ。