石田三成になりきってのツイートを続ける大学院生の「ジブ殿」(@zibumitunari)。多くの人に歴史の楽しさを知ってもらおうと、流行しているトピックスや映画、アニメに絡めての発信も秀逸だ。根底にあるのは武将へのリスペクト。上毛新聞のインタビューに、三成や歴史への熱い思いを語った。

―三成になりきって発信を始めた経緯は。
俳優の小栗旬さんが三成を演じたNHK大河ドラマ「天地人」(2009年放映)でひかれました。ツイッターは140字と短い。だからこそ、分厚い書籍よりも三成の魅力を発信しやすいんじゃないかと考えました。「戦国武将がスマホを使っていたらどんな社会になっているんだろう」という考えがずっと頭の中にありました。
三成に限らずですが、戦国武将や偉人も一人の人間だということが第一にあります。三成を親身に、身近に感じてほしくて、三成が出した書状や文書などを分かりやすく発信しています。
―10年ほどでフォロワーが21万人に達しました。
好きなことをひたすらつぶやいていたら、いろんな人に見てもらえたという感じです。時事ネタ、映画、はやりのアニメの話などに、三成を少し強引にでも絡めます。私自身、多方面のオタクなので、ゲームの「ポケモンGO」とか、アニメの「君の名は。」、映画「シン・ゴジラ」などに無理やり絡め、歴史に興味のない人たちにも面白がってもらい、反応してもらえているのかなと思います。
フォロワーが一気に増えたのは「真田丸」が放送された2016年。俳優の山本耕史さんが三成をかっこよく演じてくれたので、多くの人に見てもらうきっかけになりました。

―毎年9月15日には関ケ原の戦いに合わせた実況ツイートをしています。
織田信長や森蘭丸に扮したアカウントが(信長が殺された)本能寺の変の日に合わせた実況をしていて、「関ケ原もできるんじゃないか」と思ったのがきっかけです。毎年いろんな人や企業アカウントにも参加してもらえるのは非常にありがたいです。9月15日に関ケ原があったことを知ってほしいと。これがきっかけで実際に岐阜県を訪れる人もいるし、他の武将に扮したアカウントも参戦しています。全国で地域の活性化にもつながるイベントだと思います。
当日は、結構ゆるくやっています。大まかな流れに、ネタも織り交ぜながら。関ケ原も近年、さまざまな説が出ていますが、今まで物語として語られてきた時間軸に合わせてツイートしています。正午くらいに小早川(秀秋)が裏切る設定で、必ず午後2時には「負けました」と(笑)。
西軍はフォロワーが増えているので今年は勝てるんじゃないかと思いますね。野球のWBC日本代表の栗山英樹監督も(西軍に属した武将の)大谷吉継が好きだったと話していましたし。負けフラグ(負けるという伏線)なんですけどね(笑)。
―発信で心がけていることは。
武将に対するリスペクトがないといけない。「三成か、歴史に絡めたツイートしかしない」という制約を課しています。自分個人を出さないのは徹底しているところです。

―あらためて三成の魅力は。
大きくは最後まで諦めずに戦う姿や、時代を切り開いたところです。(豊臣)秀吉の手足となって働いた人たちが進めた検地や刀狩りといった政策が江戸時代につながるという背景があり、その中心的な人物が三成。新たな時代を築いたところにひかれたのが大きいと思います。
三成は自身の領地にもかなり詳細なルール、掟書を残しています。目指したのは「権利と義務の明確化」。個々の百姓の権利や、納める年貢の量といった義務を明確にしている。これは三成のすごいところで、江戸幕府も政策に積極的に取り入れています。
―一般に三成は「官僚タイプ」という評価や、家康に歯向かう悪役のイメージがあります。
否定はできません。ただ、当時は軍人と官僚という職業が完全には分離していない。例えば検地は戦争しにいくことと同じ。秀吉に従っていない大名のもとに遣わされ、「あなたの領地の生産力を全部公開しなさい」と言っているようなものでした。それができたのが三成。反乱が起きそうな地域にも進んで向かう勇気と胆力を備え、武将らしい一面があると思います。三成の実績は、九州大の中野等教授(日本近世史)の著書「石田三成伝」に詳しく書かれています。
―出自も高い身分ではなかった。
土豪の息子とも言われています。だからこそ時代を変える人になったのではないかと。秀吉も農民の子だとか、どこの出かも分からない。常識、先入観や価値観にとらわれずに政策を進めたのは秀吉や三成たちのすごいところだと思います。
―昨年、沼田市にある真田家ゆかりの正行院に三成が落ち延び、僧になったという伝承が明らかになりました。
言い表せない感動がありました。生存伝承は三成に関してはあまり聞いたことがありませんでした。群馬というのも非常に面白い。沼田を治めた真田信之と三成はよく連絡を取り合うなど仲が良く、信之は死ぬまで三成の文書を大切に守っていたことで有名です。2人の友情を改めて感じ、「本当かもしれない」と思いました。
現地で位牌や墓も見て、やはりただのお坊さんの墓ではない印象です。偉いお武家さんの墓の形をしていたので、三成一族の関係者じゃないかと。ロマンのあふれる場所というイメージを持ちました。
三成が実際に来たかは別として、伝承が残っていることが大きいと思います。伝承が残っている意義や、背景を考えたいと思いますね。
ー相模の小田原北条氏、越後の長尾(のち上杉)氏、甲斐の武田氏のような強大な大名は上州には現れなかった。
だからこそ面白い地域。大きな権力がいないからこそ、いろいろな大名の領国の境目になり、他県にない面白さがあると思います。
戦国大名の研究が進み、大名よりワンランク下の「国衆」に注目が集まっている。真田家も国衆の一つです。ドラマで描いて面白くなるのはそうした国衆たちの「一歩間違えれば滅亡してしまうんじゃないか」というサバイバル。それが多く見られるのが群馬だと思います。
国衆が誰に付くかによって、大名の存続にも関わる。だからこそ、群馬に大名がおらず、国衆が乱立しているというのは面白い事象だと見ています。
ー国衆でも有力だった長野氏に注目が集まっているが、大名がいなかったことで今の群馬の人の歴史への関心は高くないように感じます。
大名がいなかったことは、多分影響があるんでしょう。でも調べると、いろいろとつながりが出てくる。吉沢(洋紀)さんが出している御城印もそうで、「有名な武将と、この城は縁があったのか」と分かる。真田、上杉、石田、徳川など、調べればみんな関わっている、そういう土地が群馬だと思います。
―今後の活動の展望は。
研究者の道を歩みつつ、培った発信力で一般の人と学術の世界をつなげる「ヒストリカルコミュニケーター」が自分の目指すべきところと思っています。三成のイメージ改善へ、研究を一般の人に伝えることを心がけたい。研究もツイッターも頑張りたいと思っています。
ツイッターを通じて、三成ゆかりの地に還元していきたい。地域の寺社や史跡は維持費用がかさみ、保存が難しいことが課題になっています。クラウドファンディングをしたり、ツイッターを中心とした活動から文化財の保護につなげたいです。
御城印サミットは今回バーチャル出演です。以前から出演依頼はあり、積極的にやりたいと。群馬と三成に縁があるところから、これを機に多くの人に群馬の歴史に興味を持ってほしいです。
―最後に決め台詞をどうぞ。
今年こそ西軍勝利。これしかないですね(笑)。