9月末から10月上旬まで、東京・銀座の憧れのギャラリーで「エピテーゼ展」を開催することができました。当初は東京パラリンピックに合わせて開く予定でしたが、2度延期になりました。結果的に緊急事態宣言の解除のタイミングと重なったため多くの方が来場してくださり、「災い転じて福となる」を実感しました。

 開催の目的は「エピテーゼを多くの人に知ってもらう」「利用している皆さんの輝いている姿を見てもらう」「新しい価値観を広める」でした。過去数回、群馬のギャラリーで個展を開き、潜在ニーズと関心の高さを感じていました。新天地の東京ではさらに躍進できるかもしれないと考え、誰でも入場できるギャラリーを選び、身近に感じてもらおうと考えました。

 東京には文化芸術が多く集まるためか、エピテーゼを素直に受け入れ、一つのアートやファッションとして鑑賞してくれたようです。ご利用中のモデルさんたちの輝く姿を見た方たちから、「想像以上に繊細だった」「静かに興奮した」「誰かの助けになる造形の世界に出合えた」「希望を感じた」など、温かいメッセージを頂くことができました。

 私が目指すのは医療や福祉という凝り固まった考えではなく、コンプレックスをおしゃれに楽しむ美容やファッションとしてのエピテーゼです。今回はそれを受け入れてもらえた気がします。また多くの方が、ボランティアではなくソーシャルビジネスとしての取り組み自体にも理解を示し共感してくださり、手応えを感じました。

 来場者の中には、映画や舞台で活躍している美術スタッフの方たちもいました。技術面について熱心に質問してくれ、今後の展開の鍵となるアイデアを発見できたように思います。

 個展を成功に導いてくれたのは、モデルの皆さんの協力とギャラリーの支援、利用中のお客さまを美しく撮影する技法を教えてくれたカメラの先生たちです。そして応援してくれた家族と来場してくれた友人たち、情報を発信してくれた支援者がいたからこそ。自分一人の力だけでは成功させることはできませんでした。

 受けた恩を直接その人に返すのではなく、別の人や次の世代へとつなげていくことを「恩送り」と言います。私はエピテーゼでもそれをできたらと考えています。例えば、個展を見た人が身近な人に話したり会員制交流サイト(SNS)で発信したりする。それを見た人が興味を持ち誰かに伝える。自分の経験や体験、思いを「形」にして「発信」することが恩送りになり、悩み困っている人に情報が届き、新しい価値観につながっていく―。私はそんなエピテーゼの世界を創っていきたいと思っています。



エピテみやび社長 田村雅美

 【略歴】エピテニスト。2017年、事故や病気で指や乳房などを失った人向けの「エピテーゼ」(人工ボディー)を手掛けるエピテみやびを起業。元歯科技工士。

2021/11/02掲載