▼日本人は季節や地域ごとに風を呼び分けてきた。木々の緑の香りを運ぶ風を「薫風」、梅雨明けの頃に吹く南風は「白(しら)南風(はえ)」。〈やすらぎは眠りにひとし風薫る〉上村占魚。初夏に吹き渡る風はとても心地よい

 ▼青葉がまぶしいころに吹くやや強い南風を「青嵐」と呼ぶが、この人には強すぎず絶好の風が味方したようだ。陸上競技の山県亮太さんが男子100メートルで9秒95の日本新記録を樹立した。追い風2.0メートルは記録が公認される上限ぎりぎりだった

 ▼男子スプリント界の歴史をたどると、本県選手2人の名がさんぜんと輝く。いずれも農大二高時代に才能を開花させた不破弘樹さんと宮田英明さんだ

 ▼不破さんは法政大進学後の1987年、当時の世界記録保持者ベン・ジョンソン選手(後にドーピングで取り消し)と走って10秒33の日本新。宮田さんはその3年後、高校3年で出場した国体で10秒27の日本新を打ち立てた

 ▼筆者は宮田さんの記録誕生の瞬間に立ち合った。追い風1.8メートル。ゴール脇の電光掲示板を見た瞬間、叫びたくなるような興奮を味わった。あれから30年。今では桐生祥秀さんをはじめ4人が9秒台を出している

 ▼男子100メートルは5人が五輪参加標準記録を突破しており、24日開幕の日本選手権で代表の3枠を争う。東京五輪まであと40日。コロナ下での開催に世界が揺れるなか、祭典の幕開けが刻々と近づいている。