▼公職選挙法に縛られない自民党総裁選はかつて札束が飛び交い、熾烈(しれつ)な多数派工作が繰り広げられた。1978年は福田赳夫首相が予備選で大平正芳氏にまさかの敗北。「天の声にも変な声がある」との名ぜりふを残した

▼小渕恵三首相が再選を目指した99年は、加藤紘一氏が「さわやかな政策論争」を訴え、盟友の山崎拓氏と挑んだ。勝利した小渕氏は党役員人事と組閣で両氏の派閥を冷遇。異を唱えた加藤氏を「俺を追い落とそうとしたじゃないか」と突き放した

 ▼伊藤博文から数えて100代目となる首相を実質的に決めることになる総裁選の投開票が29日行われ、岸田文雄氏が新総裁の座を射止めた

 ▼池田勇人首相をはじめ4人の首相を輩出した名門派閥「宏池会」を率いる。党政調会長や外相などを歴任したが、発信力不足が長く課題とされてきた。陣頭指揮した4月の参院広島選挙区再選挙では自民候補が落選。「岸田は終わった」とまで言われた

 ▼再挑戦となる今回は二階俊博幹事長を敵に回す覚悟で、党役員の任期制限を打ち出した。闘う姿勢は評価を高め、イメージ刷新につながった

 ▼就任あいさつで岸田氏は自身の特技を「人の話をしっかり聞くことだ」と述べた。まずやらねばならないのは説明責任を果たさなかった安倍政権から続く負の遺産の清算であり、政治への信頼を回復することだ。国民は心に届く言葉を待っている。