▼教室のガラス戸を震わせる風を従え、赤い髪の少年が山の学校にやって来たのは9月1日のことである。宮沢賢治の『風の又三郎』は少年と村の子どもたちの12日間を描く

 ▼孤独な少年ジョバンニが友人カンパネルラと旅をする『銀河鉄道の夜』。下手な演奏で楽長にしかられてばかりの主人公の家を、夜ごと動物が訪れる『セロ弾きのゴーシュ』。天文や鉱物に詳しい賢治の小説は不思議な世界にいざなう

 ▼子どもたちに一番良く知られているのが『雨ニモマケズ』だろう。賢治の弟、清六の孫にあたる宮沢和樹さんが県立文学館を訪れ、エピソードを披露した

 ▼手帳に作品が書かれたのは亡くなる2年前。結核で体が弱っていた頃だった。賢治は出版したいと思った作品は全て原稿用紙に書いており、手帳につづったこの作品を世に出すつもりはなかった

 ▼和樹さんによると、賢治が大切にしていたのは〈東ニ病気ノコドモアレバ/行ッテ看病シテヤリ〉に続く東西南北の部分だ。〈行ッテ〉というのが大切で、「いくら知識や知恵を持っていても、それをこの世で実践しなければ意味がない」と賢治は考えていたという

 ▼『雨ニモマケズ』の終わりには「南無妙法蓮華経」の言葉などで構成される文字曼荼羅(まんだら)が書かれている。〈サウイフモノニ/ワタシハナリタイ〉。本当はそうなりたかったけれど、なれなかった。賢治の祈りが込められている。