▼振り袖姿の女性が馬とエンジンが一体化した奇妙な車いすに乗り、空中からアーチェリーの弓を引き絞っている。その背後には国立競技場を中心とした東京の街が見える

▼桐生市で先月開かれた展覧会で、東京五輪・パラリンピック公式アートポスター「馬からやヲ射る」を見た。描いたのは同市出身の画家、山口晃さんである

 ▼五輪にはあまり関心がなく、依頼を受けるべきか悩んだという。政治と密接な五輪に関われば、〈現体制の翼賛者とみなされかねない〉。日本美術界には「戦争画」を描いて戦意高揚に協力した苦い過去があった

 ▼引き受けることにしたのは、「復興五輪」「金のかからぬ五輪」と言いながら理念を置き去りに突き進む政権への反発から。〈少しでも真ん中に近い所で文句の一つも言ってやりたい〉と思った

 ▼ポスターをじっくり眺めると、競技場の隅には汚染土を入れた黒い袋が積み重なり、ビルの屋上には汚染水をためたタンクがある。遠くには福島の海と福島第1原発。組織委が容認できるぎりぎりの範囲で、開催国の現状を描いた

 ▼159カ国・地域と難民選手団を迎え、東京パラリンピックが今夜開幕する。五輪に続き、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言下での開催である。躍動するパラアスリートの姿が共生社会の実現を後押しし、社会や心に残る小さな段差をなくしてくれたらいい。