▼俗界を離れた静かな場所を意味する「仙境」というあまり耳慣れない言葉を覚えているのは、「上毛かるた」の読み札に「仙境尾瀬沼花の原」があるからだろう

 ▼出版されたばかりの『絵本 上毛かるた』(群馬地域文化振興会発行)を読んでいて、この札を取り上げたページにはっとした。主人公である男女2人の子どもを背に乗せたツルが、仙境についてこう説明する

 ▼〈平和できれいなところって意味だけど、戦争で前橋やあちこちに爆弾が落とされて、焼け野原になって、そんなときこんなところがいいな、平和がいいなって思ったんだろうね〉

 ▼終戦から間もない1947年12月、混乱からの復興を願って作られたのが上毛かるただった。空襲で甚大な被害を受けた県都前橋の当時の人々がどんな思いを込めたのか、改めて考えさせてくれる言葉である

 ▼絵本は、子どもたちが、かるたに描かれる場面を訪れたり、過去へとタイムスリップして物語を展開させる構成で、新しい視点や解釈も加えている。誕生して七十数年。社会が大きく変化し、札の持つ意味が理解しにくくなっているなか、現代の子どもたちにメッセージとともに深く伝えたいとの考えからという

 ▼時代背景とともに、新島襄ら人物や絹産業、古墳、温泉などの研究成果が盛り込まれることによって、上毛かるたが、かけがえのない 文化遺産として一層、輝きを増して見える。