▼都内の大学に進学したとき、初めて1人暮らしをした。最初に入居したのは6畳一間の風呂なしアパート。歩いてすぐの銭湯を利用するのが日課だった

 ▼毎日同じような時間に通っているから知った顔ばかりで、言葉を交わさないものの親近感が湧いてくる。自宅に内風呂はあるが、大きな湯船を楽しみにして訪れる近所の人が多かった。「裸の社交場」と言うけれど、銭湯にはそんな魅力がある

 ▼昭和初期に創業した桐生市錦町の銭湯「上の湯」が先月、およそ5カ月ぶりに再開した。前店主の孫娘に当たる20代夫婦が事業を受け継ぎ、かまや内装を改修して開業にこぎ着けた。当日は開店前から常連客ら10人ほどが並んだ

 ▼上の湯は2月、前店主が入院したのを機に休業した。後継者もいなかったため廃業を考えたが、孫の津久井美紅さんが事業の承継を申し出た

 ▼営業再開に向けて動きだしていた5月、前店主が病気で亡くなった。一緒に盛り上げていくことはできなくなったが、託された思いをしっかりと受け止めた。「世代交代をしたが、なるべく長くやっていきたい。時代に合わせつつも、昔ながらの銭湯の伝統を守っていきたい」。津久井さんは前を向く

 ▼内風呂の普及や後継者不足を理由に全国で廃業する銭湯が増えている。逆風の中で立ち上がった孫娘夫婦の挑戦は始まったばかり。若い感性で銭湯文化の魅力を発信してほしい。
2021/08/07