▼東京五輪の開会式パフォーマンスで注目を集めたピクトグラム。言葉を使わず、見ただけで意味が伝わるシンプルなデザインの絵文字は、国や文化を超える優れた情報伝達の手段だ

 ▼1964年の東京五輪で競技種目や施設マークが導入されたのを機に、世界中へと広まった。高速道路などで見かけるナイフとフォークの図柄の「食堂」も当時のデザインの一つ

 ▼とりわけ多くの人に認識され、海外でも使われているのが「トイレ」だ。まだ洋式便器が一般家庭に普及していなかった時代、トイレを連想させるポーズや便器を描かず、男女のシルエットだけで見事に表現した

 ▼考案したのは、制作メンバーの一人でチーフデザイナーを務めた田中一光(いっこう)(1930~2002年)。田中は東京五輪の前年、1963年に完成した旧館林市役所に「トイレ」の原型といえるデザインを残した

 ▼建築専門誌「建築」(青銅社、1963年9月号)に掲載された「洗面所ドアーのサイン 女・男」の図柄で、前回東京五輪のピクトグラムと酷似している。庁舎は江戸東京博物館(東京都)などを手掛けた菊竹清訓(きよのり)(1928~2011年)の設計で、田中は細部のデザインなど色彩計画を担当した

 ▼庁舎は81年に役割を終えた後、今も公民館などが入る市民センターとして活用されている。ただ、日本発祥のトイレマークの根源は消失してしまった。何とも残念だ。