535人が犠牲になった前橋空襲から78年を迎えた5日、群馬県前橋市内の各地で慰霊式典が行われた。小学生から、戦争を体験したお年寄りまで幅広い世代が犠牲者を追悼し、平和の尊さを再確認した。
広瀬川沿いの前橋空襲追悼碑(住吉町)前には約50人の市民らが集まった。この地は周辺の火災による熱風などが吹き込み、多くの犠牲者を出した比刀根橋防空壕(ごう)があった場所。ことし壕の壁の一部とみられるコンクリート片が見つかった。
式典では、この壕で生き残った原田恒弘さん(85)が体験を語った。壕の中には、壁をこすって助けを求める人や、両親の名前を叫びながら倒れていく子どもがいた。自身も熱風や煙に苦しみ、気が付いたら見知らぬ女性に抱きかかえられていた。女性はそのまま亡くなった。
意識を失った原田さんは男性に防空壕から救出され、歯医者の人工呼吸で一命を取り留めた。「命のリレーがあって今ここにいる。命の重みを後世に伝えることが自分の役割だと思っている」と語った。
前橋敷島小の瀬谷色愛(いるあ)さん(12)と堀口航平君(11)、関口郭大君(9)は「みんなで助け合い、平和と命の尊さを語り継いでいく」と宣言。参列者は黙とうをささげ、献花した。父親と献花台に立った同小の関口晋平君(6)は平和な生活は犠牲者のおかげだと教えられたといい、「ありがとうと言いながら花を置いた」と話した。
市内の宗教施設でつくる「街なか神社・寺院・教会プロジェクトチーム」は5カ所で一斉慰霊式を開き、講話や祈禱(きとう)、前橋学市民学芸員による前橋空襲の説明をした。午後4時50分には鎮魂を祈り、寺院や教会、神社で一斉に鐘や太鼓が鳴った。
熊野神社(千代田町)では、前橋空襲の状況を伝える資料を展示。実話を基にした絵本を配り、灯籠を点火して平和への願いを込めた。