▼両雄が相まみえての「一発勝負」もハラハラするが、同じ相手と何度も戦って勝敗を決する「番勝負」には独特の緊張感がある。駆け引きや場外での舌戦も加わり、ときに語り継がれるようなドラマを生む

 ▼近鉄と巨人が対戦した1989年の日本シリーズ。近鉄が負けなしの3連勝を飾った試合に登板した加藤哲郎投手の発言が「巨人は(パ・リーグ最下位の)ロッテより弱い」と報じられた。これが相手を奮起させ、近鉄は4連敗して日本一を逃した

 ▼5月に高崎市の旧井上房一郎邸で開幕した囲碁の第76期本因坊戦7番勝負は、井山裕太本因坊(32)が1勝3敗の窮地から芝野虎丸王座(21)に3連勝。趙治勲(ちょうちくん)25世本因坊(65)に並ぶ歴代1位タイの10連覇を達成した

 ▼第7局は手に汗握る大一番となったが、井山本因坊が180手で白番中押し勝ち。「子どものときに見ていた趙先生の10連覇に並べたのは信じられない気持ち」と喜びを語った

 ▼本因坊を獲得した棋士は雅号を名乗ることができる。井山は知恵を授ける文殊菩薩(ぼさつ)の「文」と、自身の名前から「裕」を取り、本因坊文裕(もんゆう)を名乗った。今期の本因坊戦も知恵の限りを尽くした熱戦だった

 ▼2月に長男が生まれ、おむつを替えたり、ミルクを飲ませたりする優しい父親でもある。来期は11連覇が懸かる。「迷ったら厳しいほうを打つ」のが井山流だという。記録はどこまで伸びるのだろう。