▼日本人の原風景なのだろう。水を張った田んぼに青々とした苗がそよぐさまに心が落ち着く。きょうは七十二候の半夏(はんげ)生(しょう)。夏至から11日目のころ、この日までに田植えを終えるのが望ましいとされる

 ▼各地に残る半夏生の食文化はどれも田植えにちなんだもの。関西でタコを食べるのは、タコ足のように稲の根がしっかり張るようにとの願いから。福井県のサバは田植えの疲労回復が由来という

 ▼二毛作地域の本県では田植えが終わると、水田の代かきに使う道具からついた「馬鍬洗(まんがら)い」や田の神が山に戻る「さなぶり」と呼ぶうたげがあり、収穫したばかりの小麦で作ったうどんやまんじゅうを食べて労をねぎらった。だが、そんな風景も減っている

 ▼機械化が進み、一家総出で田植えをすることが少なくなったためだ。農業の効率化はありがたいが、大仕事の後、「ハレの日」の郷土食が消えてしまうのは寂しい

 ▼田植えの記憶が薄れても関西のタコや福井のサバは食文化として受け継がれてきた。ほかにも讃岐うどんが知られる香川県で半夏生をわざわざ「うどんの日」と定め、奈良県も半夏生餅やさなぶり餅の名できな粉餅を食べる習慣が残る

 ▼ごちそうでなく、ありふれた味でいい。生活に根差した季節の食文化を次の世代へと伝えていけないだろうか。大地の恵みと農の営みに感謝しつつ、まずはうどんとまんじゅうを食べることにする。