昨年1年間に、労働災害(労災)によって全国で802人の方が亡くなりました。このうち墜落・転落による死者数は191人でした。労災の型別としては交通事故(道路)や挟まれ・巻き込まれ、激突などがありますが、墜落・転落が実に全体の24%を占めています。

 高い所から人が落下すれば死傷してしまうと想像できます。子どもの頃、高い所で遊んだことのある人は多いでしょう。塀やジャングルジムなどに登って立っていると、家族や近所の人から「危ないから降りなさい」と言われたことがあるはずです。子どもながらに高い所は危ないのだと理解しました。そして高所からの落下は、未然に防止することが可能です。

 2019年2月に労働安全衛生法施行令等が改正され、「墜落・転落防止の検討」が加えられました。これにより、高い場所でフルハーネス型の安全帯(墜落制止用器具)を使用する場合、特別教育を受けることが必要になったのです。私は日本クレーン協会群馬支部でこの特別教育の講師を担当しており、多くの受講者に墜落・転落事故の危険性や防止策を教えています。

 そこで強調するのは、これまで高所作業において使用が認められていた胴ベルト型の安全帯について、今回の改正によって来年1月2日から使用できない場所がある点です。例えば、6.75メートル超で作業する床の設置が困難な場所では、フルハーネス型の墜落制止用器具を装着することが義務化されました。

 胴ベルト型の安全帯は服で使用するベルトに近い形状で、墜落時に内臓を損傷したり胸部などを圧迫したりする危険性が指摘されていました。実際に国内でも胴ベルト型安全帯による災害事例が発生しています。それに比べ、フルハーネス型の墜落制止用器具は、肩や胴、腿(もも)を拘束するため落下時の衝撃を体全体で支えることができ、労災の減少が期待できるのです。

 厚生労働省は18年度から22年度を対象年度とした第13次労働災害防止計画を設定しています。近年、労災による死亡者数は減少していますが、さらなる減少のために、17年と比較した死亡者数を22年までに15%減少させることを目標にしています。墜落・転落の事故防止には、特別教育を必ず受講し、フルハーネス型の墜落制止用器具を装着することが必須です。

 そこまで安全に配慮しても、全てが万全ではありません。加齢による体力の低下があることを忘れてはいけません。家庭でも、例えば植木を切ったり壁を塗り替えたり、高い場所で作業する機会があるでしょう。ご自身やご家族、ご友人の健康に気を付けてください。今こそ高所作業から墜落転落防止の心構えを!

 【略歴】専門は力学など。労災予防や構造物の維持管理などを研究し、日本クレーン協会群馬支部で講師を務める。東京都出身。東京都立大大学院修士課程修了。

2021/11/26掲載