▼〈これまでにない理念と方法によって先駆的な保存活用を実現したプロジェクト〉。世界文化遺産、富岡製糸場「西置繭所」の保存整備事業が、「日本イコモス賞」を受賞した。その理由の言葉に気持ちが高ぶった
▼文化遺産の保存活用を振興する日本イコモス国内委員会がその前進に貢献した人や取り組みに授与する賞だ。創意工夫を重ね、多くの困難を乗り越えた担当者の栄誉をたたえたい
▼昨年、6年にわたる工事が完成し、公開が始まった。資料展示ギャラリーなどを見学して最も強い印象を受けたのは、操業時の痕跡がいたるところに見られることだった。遺産の価値を損なうことのないよう、従業員の書き込みから壁に張られた新聞紙やひび割れ、しっくいの天井まで多くがそのままの状態で保存された
▼ハウス・イン・ハウスという手法を用いた透明ガラスで覆う空間づくりにより、それらを間近に見ることができ、関わった人の息遣いまで伝わるような効果が生まれた
▼こうした「保存修理」「構造補強」「活用」を一体的にとらえ整備したことについて、同委員会は〈保存活用の在り方を根本から問い直す新たな提案を高い完成度で示した〉とも評価した
▼かけがえのない人類遺産を後世に引き継ぐという世界遺産の目的と、責務の重さをもう一度私たちに伝えてくれる受賞である。