▼歌人の俵万智さんと言えば女性の等身大の恋を詠んだ歌で知られる。だが昨秋に発表した第6歌集『未来のサイズ』はコロナ禍や基地問題など社会詠で注目された

 ▼迫りつつあるウイルスを〈コンビニの 店員さんの 友だちの 上司の息子の 塾の先生〉と詠んだ。新宿ゴールデン街でアルバイトをしたことがあり、「夜の街」という言葉に疑義を呈した。〈カギカッコ はずしてやれば 日が暮れて あの街この街 みんな夜の街〉

 ▼東日本大震災をきっかけに石垣島に移住。息子が中学生になるタイミングで宮崎に転居した。ここでの歌から見えてくるのは地方の暮らしの豊かさだ

 ▼石垣島では潮が引いた時を狙って住民が貝や海草を取る。〈大潮の 時間で変わる 待ち合わせ 婦人部会合 延期となりぬ〉。田舎は人間関係も濃密だ。〈どこんちの ものかわからぬ タッパーが いつもいくつも ある台所〉

 ▼都会の魅力は展覧会やコンサート、ファッションなど最先端の刺激と便利さだろう。一方、地方の良さは田畑が身近にあることや、美しい四季の風景だったり、これだとはっきり説明しづらい

 ▼コロナ禍で東京一極集中の問題が顕在化し、群馬県にも移住の問い合わせが増えているという。歌集にはこんな歌もあった。〈一枚の 版画の原画の マチエール 確かめたくて 乗る両毛線〉。どこの美術館を訪ねたのだろう。