▼落語「疝気せんきの虫」は夢で変な虫を見つけた医者が主人公。つぶそうとすると、命乞いして「自分は疝気の虫だ」という。そばを食べると力が湧くが、苦手は唐辛子。夢から覚めた医者がさっそく試してみるという話だ

 ▼疝気は下腹部の痛みの総称である。医学が発達していない頃、病気は体内の虫が原因と信じられていた。1568(永禄11)年に描かれた「針聞書はりききがき」には、肝臓にいる「肝積かんしゃく」、胃にすむ「血積ちしゃく」などの想像図が記されている

 ▼「虫の居所が悪い」といった慣用句もその名残。医学の発達でもう虫のせいだと思う人はいないだろうが、乳幼児の夜泣きの原因とされる「かんの虫」は健在だ

 ▼昔から悩みの種だったようで、神社には「虫封じ」の祈祷きとうを行うところがある。有名なのは山名八幡宮(高崎市)。「虫きりの詞」が伝わり、虫きり鎌のお守りと、疳の虫や厄を食い切るとされる獅子頭の被り物が人気を集める

 ▼子育て中の家族を支援しようと、山名八幡宮や社会福祉法人「しんまち元気村」が中心となって「むしのしわざプロジェクト」を展開している「虫のせい」にして乳幼児や保護者を責めず、相談に乗る

 ▼成長とともにいずれ収まるとはいえ、理由の分からない夜泣きが続くと、保護者は精神的に参ってしまう。相談できる場があることは、きっと救いになるだろう。