▼画家で文化功労者の安野光雅さんが昨年末、94歳で亡くなったことを知り、数多い著書のなかの2冊を手に取った。1冊は、折に触れてページを開いてきた『天は人の上に人をつくらず』(童話屋)
▼〈わたしは、この言葉を声にだして読むことができない。読もうとすると、いつも声がふるえてしまうのだ〉。その言葉とは、米国の自由を願う人たちによる「ワシントン大行進」(1963年)で、黒人公民権運動の指導者、マーチン・ルーサー・キング牧師が行った演説「私には夢がある」だ
▼「すべての人は平等につくられている」という理念を訴えたこの演説に寄せる深い共感は、遊び心あふれる絵本などの制作とともに安野さんが積み重ねてきた深い思索から生まれたものなのだろう
▼もう1冊は、皇居に咲く花々を素材とする水彩画集『御所の花』(朝日新聞出版)だ。2011年から翌年にかけ御所に通い、描き上げた
▼6年前、前橋で開かれた「御所の花」展で、それらの作品に接し心打たれたのを思い出す。その前にキング牧師の言葉への思いをつづる文章を読んだからだろうか
▼花木へのやさしいまなざしに加え、自由、平等という「永遠の真理」を尊ぶ強い意志が伝わってきた。〈自然の花の命をとても身近なものに 感じるようになった〉。画集に添えられた言葉が一層重みを増す。