▼国会や首相官邸で取材していると、政権中枢にいる政治家がオーラで輝いているように見えることがある。小渕内閣で官房長官を務めた野中広務さんがそうだった。あすで逝去から3年になる

 ▼1998年7月に小渕内閣が発足すると、政敵とされていた自由党の小沢一郎党首に頭を下げ、連立政権樹立に尽力した。翌年、公明党を加えた自自公連立へ道筋を付け、「影の総理」と呼ばれた

 ▼射抜くような眼光。鋭い舌鋒ぜっぽうから「政界の狙撃手」と恐れられた。自民党幹事長時代には「魂の触れ合う仲」とまで高く評価していた加藤紘一元幹事長による「加藤の乱」が起き、これを鎮圧した

 ▼こわもての一方で、弱者に配慮した政策を重視した。ハンセン病訴訟原告団のこだま雄二さんらと親交があり、政界引退を表明すると、思いとどまるよう訴えたのは元患者たちだった

 ▼存命なら安倍晋三前首相から続く政権をどう見ただろう。日本学術会議の会員任命拒否や「桜を見る会」前夜祭の問題など、説明を拒む政府を厳しく批判したに違いない

 ▼衆院本会議で顔を上気させ「大政翼賛会にならないようお願いしたい」と演説した姿が忘れられない。危機にあってリーダーの在り方が問われる中、菅義偉首相が今どれほど国民の信頼を得ているだろうか。これほど言葉の力が問われている時はない。