▼広大な畑の先に、2階建ての主屋と蚕室。瓦屋根の上には、それぞれ換気用のやぐらが並ぶ。世界遺産の田島弥平旧宅(伊勢崎市境島村)に近い田島亀夫さん(86)方は「島村随一の景観」と評される。蚕室は昨年12月に修繕を終えたばかりだ

 ▼取り壊すか、直すか。亀夫さんはこの10年近く迷い続けてきた。大正初期までに建てられたとみられる蚕室は東日本大震災で傾いた。屋根瓦は剥がれ落ち、木板の下の土壁が露出した

 ▼修繕費は約900万円。「危険なので放置できないし、お金はかかったが、直せてよかった」と胸をなで下ろす

 ▼亀夫さん方のように独立した専用蚕室は珍しい。「つぶさないでほしい」という専門家の声を受け、修繕を決意した

 ▼境島村に数多く残る大型蚕種製造農家は歴史を伝える貴重な文化財だが、維持するには所有者の負担が大きい。亀夫さんは地元で中心となって勉強会を開き、建物の価値、残す意味や手段を探ってきた。そうした中で昨年決まったのが、弥平旧宅周辺の蚕種製造農家3軒の国有形文化財への登録だった。登録を希望する所有者はほかにも複数いる

 ▼さらに重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)の選定を目指して所有者らが協議会を発足。会長職は若手に任せた亀夫さんだが、後押ししていくつもりだ。境島村の景色をいつまでも残したいから。