▼俳優の堺雅人さんが主演した映画「南極料理人」(2009年公開)に印象的なシーンがある。昭和基地から1千キロ離れた「ドームふじ基地」でラーメンが底をついた。小麦粉と卵で打てないのか尋ねられ、申し訳なさそうに答える。「かん水がないんです」
▼中華麺の風味やこし、色合いを生み出すのはかん水だ。固形かん水の成分は炭酸ナトリウムなどである。映画では隊員が「あくまで元素記号の話だけどね」と断りながら、ベーキングパウダーと塩による代用を提案してピンチを救う
▼映画を見て無性に食べたくなり、粉末かん水と高崎産の小麦粉を買い、麺を打つことにした。使ったのは古物商から購入した家庭用の製麺機である
▼製麺機の産地は鋳物業で栄えた埼玉県川口市周辺。粉食が盛んな本県で広まり、機械製麺のうどんが普及する昭和50年代まで家庭で重宝された。最近はラーメン愛好家が中古品を買い求め、麺作りに使っている
▼小麦粉にかん水を希釈した水を混ぜてよくこね、製麺機のローラーで適度な厚さに延ばす。続いて切断用の歯に通せば自家製麺の完成である
▼チャーシューと煮卵は作るが、スープやメンマは市販品。だが食べてびっくり。麺がもちもちでとてもおいしい。水を多めにした「多加水麺」や縮れ麺もできる。粉食の新たな楽しみを発見した気がした。